◆植松被告と直接対話することに
翌2017年になって、フェイスブックで僕の文章を知った大阪の歌手「パギやん」とたまたま知り合いになり、「これを歌にしよう」ということになりました。僕の文章をそのまま歌詞として、曲をつけて歌ってくれる、というのです。8分の長い曲ですが、「これはぜひ公開したいな」と思ったのです。
障害のある家族を持つ人たちに家族写真の提供を呼びかけ、音楽に乗せてYouTubeで公開しました。それから、TBSラジオの鳥山穣プロデューサーに「この曲をラジオで流せないか」と話をすると、「どうせだったら1時間番組を作ってみませんか」と言われたのです。
この後、僕は取材で植松被告と6回拘置所で会いましたが、ごく普通の青年でした。それがすごく衝撃的で、異常な犯罪者というよりはコンビニでよく会うような青年のタイプでした。

ただ、面会を重ねてわかったのは、植松被告は重度障害者を狙ったのですが、実はそれだけではなかったんです。世の中に役に立たないと思った人を狙った。つまり、今障害を持つ人だけじゃなくて、私たちがこれから交通事故に遭って動けなくなったり、年を取って寝たきりになったりしたら全員殺害すべきだという主張です。限られた人を狙ったものじゃなくて、「誰でも役に立たなくなったら殺害すべきだ」というのが植松死刑囚の考え方なのです。「考え方は分かる」と言う人は、自分が被害者になるということを考えていないから、言えるのだと思うのです。時代を象徴している事件だと思います。
◆歌をベースにしたラジオドキュメンタリー
面会を重ねてTBSラジオと一緒に作ったラジオ番組は、今もポッドキャストで聴くことができます。
『SCRATCH 差別と平成』(2019年)
https://podcastranking.jp/1512354362
植松聖被告は「障害者には生きている価値がない」と述べた。障害がある息子を持つRKB毎日放送の記者は、被告との面会を重ねながら現代の差別の根底に流れるものを探る。番組中、パギやんが歌う「障害を持つ息子へ」が全編流れる。放送文化基金賞で最優秀賞、日本民放連盟賞と文化庁芸術祭で優秀賞のほか、早稲田ジャーナリズム大賞やABU(アジア太平洋放送連合)賞でも入賞。
※SCRATCHは「ガリガリと線を引く」の意。

【スタッフ】
ナレーション:長岡杏子(TBS)・櫻井浩二(RKB)
植松被告の吹替:鳥山穣(TBSラジオ)
ディレクター:神戸金史(RKB)














