「今回でリサが最後なので……。彼女を応援するためにも、出場しました」
少しばかり視線を伏せ、清水綾乃は、今大会に出場した理由を明かす。
彼女の言う「リサ」とは、牛島里咲。今大会での引退を表明している27歳は、2歳年少の清水にとって、小学1年生の時から知る「強い同郷のお姉さん」であり、群馬県高崎市のテニスクラブで腕を磨いてきた盟友であり、何より良き友人だ。その友人のラストダンスを見守るべく、清水自身も同じステージに立った。
清水自身は、2年前に肘にメスを入れて以来、1年以上コートに立てない日々を重ねてきた。復帰戦は、昨年10月。当初は「ボールが来た時、どこに打つべきか何をすべきか、以前だったら5つくらい出てきた選択肢が1つしか見えない」状態に悩まされた。
それが最近では「(選択肢が)たくさん出てくるようになってきたんですよ~!」と、胸を張ってお茶目に笑う。昨年10月の復帰時点で1000位台だったランキングは、今は431位。再び世界ツアーを狙う位置に戻ってきた。
ランキング急上昇を支えたのは、4月以降多くの国際大会に出て、ポイントを得てきたため。そのやや過密スケジュールは、この『SBCドリームテニスツアー』出場から逆算して組んだものだ。今年3月、牛島から「今大会が最後」と聞かされた時から、清水にとってもここが一つの照射点となった。
牛島との絆が、出場決意の契機なのは間違いない。とはいえ出る以上は、もちろん手ぶらで帰るつもりはない。「賞金、欲しいですね」と不敵な笑みを浮かべ、実力者が頂点に焦点を定める。
男子の方では今回のラウンドロビンで、関係者や参戦選手たちの期待や好奇の視線を集めた選手がいた。菊地裕太。アメリカの大学を卒業したかつての高校チャンピオンにとって、今大会は実に5年ぶりの日本での試合であった。
母校はアメリカ西海岸の名門校、UCバークレー校。そのチームTシャツ姿で会場に居た菊地は、「日本に置いてあった服が、ぜんぜん入らなかったもので……」と、はにかんだ笑みを浮かべた。
高校時代の服が小さくなったという事実は、この5年間の菊地の急成長を物語る。高校卒業後の進路を考えていた時、バークレー大学に行くと即決したのは、実際に訪れ「施設や環境のすばらしさに感激したから」。大学在学中、トレーナーの指導の下にフィジカル強化に励んだ結果、文字通り一回りも二回りも大きくなった。とはいえ175㎝の身体は、アメリカでは小柄な部類。「なんでもやらないと勝てない」という環境の中で、ボレーやスライスも用いるオールラウンドなプレースタイルを築いてきた。
その根底を支えるのは、「高校の頃から変わらずしっかり攻めるテニス」。今大会のラウンドロビンでは、失セットゼロで成長した姿を披露。カリフォルニア帰りの男が、旋風を巻き起こす。
文/内田暁