その時、廊下の手すりに両手を結束バンドでしばりつけられ、身動きがとれない職員の前に現れたのは、血だらけの入所者でした。
重度の知的障害と自閉症がある尾野一矢さん(50)。

「携帯とって、四角いのとって」
職員の必死の訴えに、一矢さんが応えます。
首やお腹を刺され、「痛い、痛い」とうめきながら、携帯電話を探し出しました。
職員はその電話で、110番通報をしました。
神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」。
2016年7月26日、ここで19人の死者と、一矢さんを含む26人の重軽傷者が出ました。
入所者を次々と刺した元職員・植松聖死刑囚(33)は、こう主張します。

『障害者なんていなくなればいい』
障害者の存在を否定するような植松死刑囚の差別的な言動は、社会に大きな衝撃を与えました。
事件から7年が経とうとする今、一矢さんは施設を出て、介護者の力を借りてアパートで一人暮らしをしています。

一矢さんの生活は、事件を起こした犯人の主張に対する「答え」だと家族はいいます。
その答えとは何なのか――。
一矢さんと一矢さんを支える人の歩みを追いました。