失われた30年は企業にも責任。「現状維持病打破」には成長とセーフティネットが必要
――代表幹事就任の演説で「現状維持病を打破しよう」と述べた。デフレが「現状維持が一番いい」という思考にしてしまったのか。
新浪剛史氏:
失敗をするとその分のコストは高くつくということで、新しいことをやるよりも何とか現状維持すると。それが雇用にも表れて、正規雇用の方々を守っていればそれでいいのだと。これが30年の思考になって、これだけ余剰資金も貯め込んだ中でも人への投資をしてこなかった。資源のない日本で必要なのは、良い人材を育て上げていくこと。財界としてその点が大きく欠けてきたのではないか。そこは反省しなければいけないと思います。
――現状維持を打破するために何をすればいいのか。
新浪剛史氏:
成長というのは絶対忘れてはいけない。しかし成長が故に必ずひずみが出てくる。社会課題の問題にちゃんと手を差し伸べないと、社会そのもののひずみがもっと悪くなっていくと。失敗してももう一度やり直せる、もしくは新しい仕事に移れる共助という世界をしっかり作っていくことによって両輪で社会を支えていこうと。成長も重要だが、セーフティネットも必要だと。共助は民間企業とNPO、市民社会の皆さんと一緒になって社会問題を解決して、その結果として企業も社会からなくてはならない存在になりたい。
――共助資本主義にしていかないと資本主義自体がサステナブルでないと気づいたのか。
新浪剛史氏:
日本でも社会における格差は非常に広がってきている。ここに手をつけなければ、社会そのものが混乱をしてしまう。非常に衝撃的な事実としてお子さんの7人のうち1人が貧困化していると。これはOECDの中で一番まずい数値です。公助ではできていない。そういった意味で、共助を作る。企業がコミュニティとタイアップして問題を解決する一助になってくる。そういう企業体であることによって、社会からなくてはならない存在になっていくと。

2023年の春闘について、労働組合の中央組織連合は7月5日、定期昇給とベースアップを含んだ賃上げ率が平均で3.58%となり、30年ぶりの高水準になったと発表した。
――新浪氏はサントリーホールディングスの社長として6%賃上げを最初にぶち上げた。
新浪剛史氏:
結果的に7%上げたわけです。重要なのは社員のモチベーションです。あれだけインフレになって大変な中で、会社はちゃんと面倒見てくれるのだなと。我々にとっては楽な話ではありません。しかし、社員のやる気が重要なのだとものすごく今回感じました。
――賃上げと物価の好循環をどう続けていくかが最大の課題だ。
新浪剛史氏:
政府の仕事と民間があると思います。政府の仕事は人材の流動化をどう活性化するかで、国内の投資をもっと増やして、賃金が高いところへ移動したいという人をもっと作り上げていく。一方で、企業は良い社員にもっと入ってきてもらいたい。今いる社員にもっとレベルアップしてもらいたい。そのために教育や研修、健康経営だとか社員に対する投資をもっとしていく。この両輪がそろって初めて賃金が継続的に上がるという社会ができると思います。
――なぜこれまで賃上げができなかったのか。
新浪剛史氏:
財界が国民に信頼されていない。この30年を失ってしまったというのは企業にも責任がある。正規雇用にこだわるがゆえに、守りに入るのだとコストカットを中心にやってきたわけです。しかし、我々はその中で300兆円以上の余剰資金を貯めてしまった。置き去りになったのは社員ではないかということになったわけです。最近財界がものを言ってもなかなかみんなが一緒になって動いてくれない。私たちは反省しなければいけない。
――来年になれば賃上げをやめてしまうのではないかと心配だ。
新浪剛史氏:
今回AGCや凸版印刷、手前どもも2030年まで何とか賃金を上げていきたいと思っているわけです。2030年を見据えて、各社とも賃金が上がる前提で経営計画を立てていると思います。
――2024年春闘も、今の賃上げの流れは持続できそうか。
新浪剛史氏:
しなければいけないと思っています。私はある程度の自信を持って、また賃上げが起こるぞと思っています。
(BS-TBS『Bizスクエア』 7月8日放送より)