2023年、経済同友会のトップに就いたサントリーホールディングス社長の新浪剛史氏に日本経済の現在地について話を聞いた。

日本経済は底堅くデフレ脱却は近い。日銀はYCCの見直しを

2023年4月に経済同友会の代表幹事に就任した新浪氏は、2002年に三菱商事からローソンの社長に就任。2014年にサントリーホールディングスの社長となったプロの経営者だ。

――コロナが明けて経済活動が正常化し、30年ぶりの賃上げも実現して、明るい動きも見えてきた。日本経済の現在地、我々は、どういうところにいると思うか。

経済同友会代表幹事 新浪剛史氏:
踊り場に来ているのだと思います。サービス産業を中心にインバウンドのお客さんもずいぶん増えていますし、非常に明るくなってきているなと。一方で製造業は、これからアメリカがリセッションのレベルがどうなるか、中国が思ったよりも良くない、ヨーロッパは良くないという状況の中で、日本は海外の経済に影響されますから、今後は何となく厳しいかなと思いながら見ています。一方で、値上げも受け入れていますし、消費マインドは少し改善しているという感じではいます。

――物価の上昇も円安もきつく消費が腰折れしないか、実質所得の減少が効いてこないか心配だ。

新浪剛史氏:
日銀の政策的には、ここである程度、手を打てるような状況にはあると思っています。YCC(イールドカーブコントロール)をなくすということではなく、YCCの枠を1%程度まで増やすことによって、為替がこれ以上円安にならないというところは、必要な状況にあると思います。

――1ドル144円、45円と言われると、弊害の方が大きいか。

新浪剛史氏:
これからますます遅行的に物価に表れてきますから、課題が出てくるなと。一方で、日本の経済は底堅い。そういう状況を考えると本当にこの145円という世界が、日本の経済力を示しているかというと、もう既にそうではなくなってきているのではないかなと思っています。

――日本経済が為替の世界では過小評価されているのか。

新浪剛史氏:
日本経済の今の力を考えると、円安は140円をもっと切る方向に持っていかなければいけない。その結果として、悪い物価高ではなくて、賃金が上がるから良い物価になると。この切り替え地点にあるのではないかなと思います。

――これまで30年続いてきたデフレの時代は、ほぼ終わりを告げたと見ているのか。

新浪剛史氏:
まだそこまで言い切れないのですが、終焉に近いなと。人手不足の解消はそう簡単ではなく、人手不足を考えると賃金は上がらざるを得ない。賃金が上がるということはインフレを意味するわけで、デフレに戻らないインフレに近くなってきているという状況にあると思います。

――政府の政策はまだ30年のデフレ脱却に置いたままだ。企業活動は先の課題に挑戦していくのか。

新浪剛史氏:
まさにそれが企業の企業たる所以だと思うのです。企業というのは、先を見越して投資や活動をする。今まではデフレが故に縮こまっていた。ここで動こうよという端境期に来ているわけです。そこを変えて動かしていくのは民であり、民が経済の中心になる大きな節目だと思います。

――千載一遇のチャンス。これを生かさない手はないということか。

新浪剛史氏:
本当にこのチャンスは次回来るかわからない。デフレを脱却するためものすごく苦労してきたのです。実は失敗だらけなのです。その失敗の結果として国はこれだけの借金を抱えてしまった。もう二度とデフレのマインドに戻らないように経済界のリーダーたちは腐心しなければいけないということだと思います。