廣中璃梨佳(22、JP日本郵政グループ)に笑顔が戻った。ホクレンDistance Challenge2023網走大会が7月8日、北海道網走市営陸上競技場で行われた。女子5000mは昨年の世界陸上10000m代表、5000m日本記録保持者の廣中が15分29秒12で優勝。今季は不調が続いていたが復調をアピールした。10000mでは日本人でただひとり、8月の世界陸上ブダペスト参加標準記録を突破済み。この種目で世界陸上参加資格(標準記録突破かRoad to Budapest 23でエントリー人数以内)を得る選手が4人以上に達するのは難しい状況で、8月2日以降に廣中が代表入りすることが有力になっている。

課題だった終盤のペースダウンを克服

レース後の廣中は久しぶりに笑顔だった。

「初戦(ホクレンDistance Challenge士別)の3000mが直前に脚が攣ってしまうアクシデントもあって、しっくりこないレースでした(9位・9分20秒63)。バランスが崩れたりしていた部分も大きく、課題を持ちながらこの1週間を過ごしてきました。徐々にバランスも取れてきて、リズムにも乗れて来ていたので、1つ自信を持ってレースに戻りました」

廣中の優勝記録は15分29秒13で、自身の日本記録(14分52秒84)との差はあった。しかし2月の世界クロスカントリー選手権を左アキレス腱の痛みで欠場し、約2か月間、練習に影響が出た。そのため今季は精彩を欠く走りが続いていた。

「今日の記録は今後に向けて、弾みになりました」と、場内インタビューに答える声も弾んでいた。特に最後の1000mを2分58秒9とペースアップしたことが、廣中にとって意味が大きかった。

「世界陸上が終わってからずっと、思い通りのレースができませんでした。後半にかけてどうしてもペースが落ちてしまっていた。今回ラスト1000mで、少しでも切り換えられたのは自信になりました」

廣中は21年の東京五輪で5000mの日本新をマーク、10000mでは7位に入賞した。昨年7月の世界陸上オレゴン大会10000mは12位、入賞は逃したが30分39秒71の日本歴代2位と快走した。

だが昨秋は、悪くはないが国内選手に勝てないレースが続いた。今年5月のゴールデンゲームズinのべおかは3位以内に入れば世界陸上代表が決まったが、4位に終わった。6月の日本選手権5000mは21位に沈んだ。若くして日本のトップに成長し、世界と戦うことが期待されていた廣中が、昨年のオレゴン後は苦しみ続けていたのだ。

世界陸上を「1年間でどう自分が変われたか」を感じる舞台に

終盤のペースダウンは、「自分的にはスタミナの問題だとは思えなかった」という。アキレス腱痛で練習ができない時期もあったが、走りのバランスが崩れていた。それを短距離選手だったトレーナーのアドバイスを受け、修正を試みてきた。

「腕の力みなどが蹴る動作にもつながっていて、前に進みたいけど跳ねるような動作になってしまっていました。もともと(トラックを回る競技特性もあり)右脚を強く使って、左脚が使えていない課題も相談して、こういうトレーニングがあるよ、と教えてもらってバランスを整えてきました」

もちろんトレーニング自体の効果もあったが、新しいことに取り組むことで、廣中の意欲が大きくなった。

「新しいトレーニングだったり、視点を変えてみたりすることで、動きは全然変わることを自分でも感じられましたね。しんどい日々でしたが、いい期間だったかな」

世界陸上代表入りの正式決定は8月2日以降になるが、10000mの出場は間違いない。5000mは他の日本人選手の状況次第になるが、廣中にも可能性はある。8月中旬にはスイスの高地練習拠点であるサンモリッツに出発する。廣中にとっては初めて行く場所で、新たな気持ちでトレーニングに取り組める。そしてサンモリッツから直接、ブダペストに入る予定だ。

「世界陸上は入賞を目標にしていきながら、この1年間でどう自分が変われたかを感じたい。大舞台だからこそ見える部分があると思います。去年の自分と変わったね、と言ってもらえるような走りがしたいです」

網走の走りの内容で、廣中の視界が一気に開けてきた。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)