8月にハンガリー・ブダペストで開催される世界陸上。男子20km競歩代表の山西利和(27、愛知製鋼)が19年ドーハ大会、22年オレゴン大会2連勝と、日本勢では一番の実績を誇る。東京五輪金メダルのマッシモ・スタノ(31、イタリア)や、東京五輪&世界陸上オレゴン連続銀メダルの池田向希(25、旭化成)ら、ライバルも手強いが、山西が力を発揮すれば3連覇の可能性は大いにある。
6月下旬に山西が共同インタビューに応じた。そこで話した内容を整理してお届けする。
「金メダルをターゲットに、やりたいことを」
――世界陸上への抱負をお願いします。
山西:(3大会連続となる)金メダルをターゲットとしながら、自分のやりたいことをきちっとできるように準備をしていきたいと思います。出来としては今のところ50~60%。あと2カ月で上がっていくよう、これからしっかりと準備を進めていきます。
――直近のレースが5月6日のポルトガルの20km競歩で、1時間20分58秒の3位でした。
山西:久しぶりのヨーロッパへの遠征だったので、時差調整の難しさみたいなものは感じました。ポルトガルは初めてだったので、自分にとって新鮮な経験だったと思います。エクアドルやブラジルなど中南米の選手が中心の大会で。警告が2枚ついたことが反省点ですね。現地での調整や感覚のアジャストが上手くいきませんでした。練習で少しバタバタした動きだなと感じた瞬間はあったので、それが如実に出てしまった。絶対大丈夫だと思った動きをしているのに赤(警告)が出たわけではなくて、ちょっと今日は良くないなと思っていて赤が出たので、まあやむなし、という感じの評価をしています。課題が出てしまったと受け止めて、次に生かしていく必要がある。
「(過去2大会と)違うと言えば違いますが、3連覇目だから何かがあるわけではない」
――連続金メダルの過去2大会前の今の時期と比べて、求めてるものも違うと思うのですが、比較できるものがあれば?
山西:わかりやすく比較しようと思ったら、本番前のレースとの間隔です。ドーハの時は10月に対して6月、約4カ月前にレースに出ました。オレゴンも7月に対して3月頭なので、4か月前。今回は8月に対して5月頭なので3か月ちょっとぐらいの期間です。レースからリカバリーして軌道に乗せていく作業をしていますが、どうしても少し、コンディションの仕上がり具合が遅れていると思います。ただ、それはある程度わかっていたことですし、この冬にやってきたことや、ここまでの経験値と照らし合わせながら、残りの2か月を切ったところですけど、調整していかないといけない。
――どんな心境の違いがありますか。
山西:心境は特に大きな変化はないと思っています。ないと言えば嘘ですけど、自分がやって来たこと、積み重ねてきたものがあります。その意味では違うと言えば違うんですけど、3連覇目だから何かがあるわけではありません。例えばドーハで優勝する前の自分がそうしていたように、周りの選手は1回目の勝ちを取りに来るわけで、僕が1回勝ったとか2回勝ったとか、そういうことは一切関係ない。過去の実績が戦うわけでもなく、今この瞬間の僕と相手が戦うだけです。相手がオリンピックで勝っているとかも、一切関係がない。今このスタートライン立った自分と相手だけがいる。その意味では本当に、何も変わりなくやっていけばいいかなと思います。ただ、レースに対する作り方であるとか、深みみたいなものはもちろん出ると思いますので、そこはレースの中に込められたらなと思います。
「レースを積極的に作っていく、デザインしていくことができたら」
――王者らしい自分でレースを作るような展開をしていきたいのか、それともまた違う試みも考えているのか。
山西:そんなに大きく変わらないですね。自分の行くべきところで行って、待つべきところは待った上で勝ち切ることが1つのテーマかなと思います。
――自分のやりたいことを、というお話もありましたが、どのような展開へ持っていきたいか、改めてお聞かせください。
山西:去年の世界陸上オレゴンも少しできたとは思うんですけれども、周りからの見られ方も変わっていく中で、担うべき場所は担って、担うっていうと言い方が変ですけど、自分で積極的にレースを作っていくとか、自分でレースをデザインしていくとか、そこがしっかりできたらいいかなと思います。
――ラストスパートに力を入れてると耳にしたんですけど、現状、ラスト5kmのスパートの仕上がり具合とか、今後もっとこうしていきたいとか、そういうところの展望を。
山西:国際大会ですので前半10kmは少しゆっくり入って、後半10kmで上がっていく形になると思うので、ラスト5kmとか、ラスト数kmは当然、ポイントになると思います。ただ、スパートの能力だけを研けば勝てるわけではありません。基本的に僕のとっていく戦略はレース全体のアベレージ、ベースを上げていって、生き残っていくということと、勝負どころまでにいかに余力を残すかの2点です。そこができてくれば自然と、スパートでも差がつけられるのではないかなと思っています。
「気象や路面の違いを頭に入れながら準備を進めます」
――周りの選手からのマークも厳しくなっていく一方だと思うんですが、周りの選手は山西選手が動いたら動くとか、山西選手にレースメーキングを委ねる傾向がどんどん強まっている。その中でいかに歩きの面、精神面で立ち回ることがいい結果につながるのか。
山西:もちろん委ねられる部分というか、任される部分もあると思います。その時は受けて立てるだけの実力をつけておくことが、一番大事かなと思います。そういうシチュエーション、状況において、自分が多少リスクを負うような展開になったとしても、それを選択できる実力を付けておくこと、心づもりをしておくことが重要だと思います。そこは、ここから2カ月の準備にかかっているのかな。
――現地の気候など環境的なものや、ブタペストの会場の特徴などで、過去のドーハやオレゴンと比較しての見解でもいいのですが、現地のコンディションに対してどのような印象をお持ちでしょうか。
山西:気候はカラッとしたヨーロッパ特有の、日差しが強いけれど朝晩の寒暖差があっりするのかなと思っています。8時50分のスタートがどれぐらいの気温になるか、いろんなデータを集めながらですけど、特殊な気候ではないと思います。ドーハのような高温多湿の環境ではなくて、風があればちょっと涼しいだろうし。朝早いスタートだったら少し涼しいかな、とか。路面に関しても、いわゆるヨーロッパの道路ですので、でこぼこが多少はあると思いますし、スタート&ゴールの英雄広場はサーフェスが違うだろうと思います。だからなんだということはないんですけども、少し頭に入れながら準備を進めたいなと思います。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)