山口県山口市阿東地区や萩市など県の北部を襲った豪雨災害から、間もなく10年を迎えます。県内で2人が死亡、1人が行方不明となり、1700棟以上の住宅が被害を受けました。このとき阿東地区で浮き彫りになった課題が「地域の連携」。災害を教訓に、地域で助けあって避難し「逃げ遅れゼロ」を目指す男性がいます。防災意識を高めようと災害に備えた地域の取り組みを取材しました。

伊藤浩文さん
「まさかというようなことになって・・・」
山口市阿東地区の鍋倉集落に住む、伊藤浩文さん(69)。2013年、この地域を襲った記録的な大雨は住宅浸水や土砂崩れなど甚大な被害をもたらしました。
伊藤さん
「最終的には我が家なんかは、畳から上に水位が上がった、床上浸水というような感じになって、そこまでの意識は全然なかった状態でございますね」

2013年7月28日。県内は中部と北部で早朝から猛烈な雨に見舞われました。徳佐では7月の1か月間に降る量の平年値を上回る324ミリを、1日で観測。山口市阿東地区では阿武川がはん濫し、濁流が近くの住宅を襲いました。JR山口線では、線路が橋脚ごと流されました。土砂崩れや道路の崩落がいたるところで発生し、孤立状態となるところもありました。

山口県内では、死者2人、行方不明者1人、1700棟以上の住宅が被害を受けました。
あれから10年…。

すでに災害復旧工事は終わり元の集落の姿を取り戻しています。
現在は川幅を広げるなど豪雨に備えた工事が進められています。伊藤さんの自宅には当時の爪痕が今も残っています。

伊藤さん
「白い線が当時の水位の跡になります。これからずっと100メートルぐらいの水面幅になって集落を襲ったということになりますね」

伊藤さんの自宅は、床上1メートル浸水し、畳と壁を全面張り替えました。JR山口線の線路が流された場所は伊藤さんの自宅のすぐそばにあります。伊藤さんは設計技師として、現在も護岸やダムなどの設計に携わっています。
伊藤さん
「1、2、3、4つ中にピアっていって橋脚が石でできた橋脚があったんです。木やら竹がちょうど横になって塞いでダムのようにして、オーバーフローさせたと。すごい力ですいね」
鍋倉集落では人的被害はなかったものの、多くの人が水が引き始めたあとで避難を始めました。「避難が遅れた」と振り返ります。
伊藤さん
「この集落を、今後災害がないようにするためにはどうしたらいいか。みんなが逃げると避難するというのをある程度一致するためにはどうしたらいいかと」

伊藤さんは災害をきっかけに防災士資格のほか、2016年には山口大学大学院の河川環境に関する博士号を取得。2020年には自主防災組織に助言や指導をする、県の自主防災アドバイザーに認定されました。災害をきっかけに立ち上げた鍋倉集落の自主防災会の会長も務めています。
伊藤さん
「昔の設計が、昔工事をやってきれいになっても、またそれに許容が追いついていっていないんじゃないかと思います」
今月1日。山口で24時間の雨量が観測史上最大の289ミリとなるなど、各地で記録的な大雨となりました。近年の異常気象で、線状降水帯が発生するなど雨の降り方が局地化・甚大化していて、「ハード面の整備だけでは限界がある」と話します。
伊藤さん
「ハードのほうはそういう感じで直されているけど、私らみたいに避難訓練やらですね、その辺でソフトの面で対応していくしかないんじゃないかな」