もし病気が治ったら行きたい場所は? 怜音さんに聞いてみた

患者の中には年齢とともに症状が和らぐ人もいますが、怜音さんはそうではありません。

意思に反して出てしまう大きな声。

苦手な場所がいくつもあることを教えてくれました。

飛行機や電車の中、レストラン、図書館…。

沈黙が求められる静かな空間です。我慢しようとすればするほど声が出てしまうと言います。


特に人目は気になり公共交通機関を使えない患者も多くいます。そこで私は怜音さんにある質問をぶつけてみました。

(記者)『Q症状が無くなった時に真っ先に行きたい場所はありますか?』

(怜音さん)
『映画館ですかね…。昔行ったことはありますが、上映後に、前の座に座る高齢男性に「誰かさんのせいで全然楽しめなかった」と言われてしまい、それ以来怖くて行けていないです。今は自宅でiPadの小さな画面で見てます』

取材した他のトゥレット症患者からも「映画館に行ってみたい」という声が多く聞かれました。

どうにかして患者たちの願いを叶えてあげられないか…

「声出しOKです」全国のトゥレット症患者を名古屋の劇場に  

CBCテレビでは5月、ある催しを計画しました。舞台は名古屋市東区の名演小劇場。1年あまり続けてきたトゥレット症患者への取材をまとめた約1時間のドキュメンタリー映像を上映することにしたのです。


当日は『自由に声を出しても大丈夫』というルールの元、全国からトゥレット症患者やその家族約60人が集まりました。

沈黙が求められる静かな空間が苦手な皆さんです。

劇場の大きなスクリーンに、臨場感のある立体音響。上映中、涙を流す患者もいました。

トゥレット症患者たち

(トゥレット症の男性患者)   
「映画を見ている感じで…なのに症状を気にせずに見られたことが良かった。疲労感は少しあったが、それ以上に見終わったあとの感動が全然勝りました」

(トゥレット症の女性患者)
「普段長い動画が苦手で一時間見られるか不安でしたがしんどくなったり動きたくなったら出て良いのは気持ち的に楽でした」

(トゥレット症の男性患者)
「静かな空間を避けていたのですごく久しぶりの経験でした。懐かしいな…と思うと同時にこういうところにもっと行けたら楽しいのに…と思って」

くしゃみと同じように…

私はこれまでに約30人のトゥレット症患者に話を聞いてきました。取材を通じて、患者の多くが、公共交通機関をはじめとする静かな空間や人ごみでの周りの目が気になって外に出られない現状も見えてきました。

トゥレット症の患者たちは口を揃えてこう話します。

「声が出たり身体が動いてしまう以外は皆さんと何もかわりません」

普段私たちは「くしゃみ」や「しゃっくり」をします。これは生理現象なので、どうしようもありませんし、周りもいちいち、反応することもないと思います。

声が出たり体が動いてしまうトゥレット症の症状もくしゃみなどの"生理現象"の1つと同じように、軽く、優しく受け流してあげられるような、そんな社会を一緒に作っていきませんか?

取材:CBCテレビ報道部 記者 柳瀬晴貴(26)
福岡県出身 報道部記者5年目 トゥレット症と生きる若者たちを追った番組「僕と時々もう1人の僕」を制作。TBSテレビ報道特集・ドキュメンタリー「解放区」7月2日 深夜放送