「女性として働きたい」。経済産業省に勤めるトランスジェンダーの職員が、職場の女性用トイレの使用を制限されたのは「違法だ」と国を訴えた裁判で、最高裁が7月11日に判決を言い渡す。一審は経産省の対応を「違法だった」と認定した一方で、二審は「違法ではなかった」と正反対の判決を出した。性的マイノリティーの人たちの職場環境について、最高裁が初めて判断を示すとあって注目されている。6月23日には、「LGBT理解増進法」が施行されたばかり。誰もが生きやすい社会とはどんなものなのか?職場のトイレ問題から考える。

「2階以上離れたトイレを」二審で職員が逆転敗訴

原告は50代の経産省職員。子どもの頃から身体的な性別が男性であることに強い違和感を持っていたという。入省後も男性として働く中、1999年ごろに性同一性障害と診断された。健康上の理由で性別適合手術を受けていないが、「女性として働きたい」と職場に希望を伝えた。同僚への説明会が行われた後、2010年から女性の服装で勤務するようになった。しかし、経産省はトイレについて「抵抗を感じる同僚がいる」として、勤務するフロアから2階以上離れたトイレを使うよう求めたのだ。

訴えを起こした経産省職員(2015年JNNの取材に)
「自分自身を否定されたような気持ちになった」

トイレの使用制限について、職員は人事院に取り消しを求めたが認められなかった。このため、2015年に提訴。裁判は、一審と二審で判断が分かれた。

【東京地裁の判決】(2019年12月)
「真に自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益だ」
→使用制限は「違法」

【東京高裁の判決】(2021年5月)
「経産省には他の職員の性的不安などを考慮し、全職員にとって適切な職場環境にする責任があった」
→使用制限は「適法」

2021年5月 東京高裁判決後の経産省職員

逆転敗訴とした高裁判決を受けて、職員は「ちゃぶ台返しという言葉があるが、こういうことなのか」と憤った。性的マイノリティーの人たちが日常生活を送る中で困ることの一つが「トイレ」だ。当事者が働きやすい職場づくりのために、民間企業では独自の取り組みも進む。