賃金が物価に追いつくことが必要

コストプッシュ型インフレを、デマンドプル型に変えていくためには、賃金の上昇が欠かせません。

賃金が現実に上がり、また今後も上がると人々が確信できなければ、商品価格の値上がりを受け入れたり、消費を拡大したりすることは、できないからです。

23年の春闘で40年ぶりの賃上げが実現したと言っても、連合集計で3.66%賃上げです。しかも、そのうちベースアップ分はせいぜい2%程度です。

2%賃上げでは3%以上の物価上昇に追いついていません。そもそもベア2%が実現したのは、一部の企業に過ぎません。

すでに消費の現場では、消費者の節約志向が顕著になっており、このまま物価上昇が加速すれば、需要減退、消費の腰折れを招きかねません。それでは何のために物価上昇を求めてきたのか、わからなくなってしまいます。

需要増加、経済成長を可能にするために、デフレ脱却を目指していたはずです。

円安は100%コストプッシュ

円安による物価上昇は、100%コストプッシュです。これ以上の物価上昇は、消費者マインドを冷え込ませ、需要を抑えるだけになりかねません。

30年にわたって「値上げはできない」と信じていた企業の行動に、すでに変化が現れた以上、更なる「のりしろ」を求める意味などないのではないでしょうか。

今の円安水準は、一部の輸出企業のメリットがあっても、日本経済全体には、はるかにデメリットが多いと、私は思います。

物価安定こそ日銀の使命

1ドル=143円は、「24年ぶりの円買いドル売り」を決めた22年9月の為替相場と、ほぼ同じ水準です。

ただ、22年は結局151円まで円安が進んだ「実績」があるだけに、今の水準での市場介入は、「アメリカの理解」という点で、なかなか難しそうです。

だとすれば、日銀は、これ以上の円安を抑えるためにも、物価上昇を加速する政策から、モデレートな物価上昇をめざす政策に転換すべき時ではないでしょうか。それこそが物価上昇をコストプッシュ型からデマンドプル型に橋渡しするために必要なはずです。

最大の使命である「物価の安定」をないがしろにするのなら、国民の日銀への信頼を繋ぎとめることなど、できないでしょう。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)