当事者が「後退している」と感じる部分は

超党派議員がまとめた案と、可決された法案を比較してみると、定義の部分が『性自認』から『ジェンダーアイデンティティ』になっているなど、いくつかの違いがあります。そして、当事者たちが特に「後退している」と感じる部分が…

1つは、基本理念の部分にある「不当な差別はあってはならない」という文言です。

当初案では「差別は許されない」との文言でしたが、反対する保守派に配慮した形で修正。
「不当な差別はあってはならない」という文言は、安倍晋三元総理がかつて国会答弁で使っていた表現です。

松岡宗嗣 代表理事
「言葉をみた人が『不当な差別』という言葉をみて、『正当な差別はあるのかな』という勘違い、誤解を生みだしかねない」

2つ目は…

教育に関する部分で、「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」という文言が追加されています。

これに対し、松岡さんはそもそも「家庭などの身近な人に打ち明けることができない」とした上で、この文言が教育の妨げになると指摘します。

松岡宗嗣 代表理事
「地域住民、その他の関係者、非常に広いですよね。ある種、人権を否定するような考え方の人たちが学校に反対だと言っていくと、学校での教育は出来なくなってしまう可能性がある」

一方、法案をめぐる議論を重ねる中で自民党の一部の議員からは、こんな声も…

自民党 西田昌司参院議員 
「自民党が一番気にしているのは、例えば学校の教育の現場で、まだ思春期にもなっていない子どもたちが、LGBTを理解させるという意味で、“おとぎ話の王子様は男性と結婚しました”というような教材をやっているような報告もありました」

松岡さんは…

松岡宗嗣 代表理事
「いま法律が何もないから自助努力で、学校の先生の意識があったり、教科書会社の意識があったりとか、現場で頑張っていて取り組みをが進んでいるが、学校での理解増進を阻むような手立てを与えてしまう状況になる」

さらに、当事者が最も懸念しているのが…

可決された法案には「全ての国民が安心して生活することができるよう留意する」といった条文が新たに加えられたのです。

松岡宗嗣 代表理事
「性的マイノリティが何か加害してくる人たちかのような、何か社会を脅かすかのようなニュアンスを帯びて、多数派への配慮が必要と。本当にそれこそがまさに差別、偏見に乗っ取った考え方だと思う」

松岡さんは「ただ平等に扱ってほしいだけ」と訴えています。

松岡宗嗣 代表理事
「なにか特別扱いしてほしいわけじゃなくて、同じように安心して過ごせる、そういう社会を作って欲しい、そういう政治を作って欲しいと言っているだけなんですけど、やっぱりなかなか届かないなと思っています」