4月から放送しているTBS系日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』。両目の視力を失いながらも、鋭い分析力・嗅覚・触覚で事件を必ず“終わらせる”FBI捜査官、皆実広見が主人公です。
主人公を「視覚障害者」に設定するに至るまでの秘話や、あえて登場人物に“方言で演技をしてもらう”という決断に込められた思いなどを、担当したプロデューサーが明かします。

ドラマは「可能性の一つを提示できるもの」

ーーなぜ『ラストマン』の主人公を視覚障害者という設定にしたんでしょうか?

『ラストマン』編成プロデューサー 東仲恵吾
「多様性がうたわれる今の社会で、いろんな人が同じように生活していること、視覚障害の方も同じような生活してるということを描きたいなという思いがありました。その中で“事件モノ”がいいのではと思っていたのですが、実際にキャラクターの輪郭とか、この作品を届けるメッセージを明確に決めたのは『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』を体験したことがきっかけになっています」

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」
1988年、ドイツの哲学博士の発案によって生まれた、暗闇の中で行われるソーシャルエンターテインメント。世界で900万人を超える人々が体験。
視覚障害者のアテンドにより、目が慣れることのない“純度100%”の暗闇の中を、触覚や嗅覚などを頼りに進む。

「実際に暗闇の世界を体験して、最初はものすごく不安などがあったのですが、視覚が遮られた分、嗅覚とか聴覚が凄く研ぎ澄まされていて。そんな中でアテンドの方の『こっちですよ』という声があったときに、すごく心強く感じました。暗闇の声がどれだけ力強いものか、というのを感じまして、どのような主人公像を作ろうかという骨格が決まりました」

ーーどれぐらい前から考えたのですか?

「2年前ぐらいに企画をして、取材をさせてもらったのは1年ちょっと前ですね」

ーー視覚障害者の世界をドラマで描くことの可能性、さらに視聴者としての視覚障害者を考えたとき、ドラマ制作の課題や使命は?

「やはりドラマはエンターテインメントである一方、社会で『こういうことができる』という可能性の一つを提示できるものだと思っています。例えば日の当たらないようなマイナーな職業だったりスポーツをヒーローにしたり、注目を当てたり」
「今回は視覚障害がある方を描く中で、健常者と変わらずに生き生きと過ごしている、ということをドラマを通して伝えたいと思いました」

ーー自分が経験していない世界を描くことで、その当事者の人たちからの反発も気になる中でのドラマ制作になるかと思います。課題は感じられますか?

「当然ですが当事者ではないので、やはりどれだけ取材をしても本人になりきれないと思っています。ただ一方で取材をしていく中で、そういう人たちの声を吸い出すと、よりリアルなキャラクターになっていくのです。ですので、今回に限って言うと視覚障害の方々を沢山取材させてもらう中で、『こうあって欲しいな』という可能性を探ることが、このドラマの役目かなと思ってやりました