「私は書き続けます」暴力に抗い、命を懸ける記者たち
記者への「暴力」は、報道を自ら抑制する「自己検閲」をもたらしている。こうした悪循環から、メキシコには、政治腐敗や組織犯罪が報じられない、「沈黙の地域」が生まれているとの指摘がある。

市民
「記者の行方不明や殺害は市民に大きな影響を与えています。悲しいことですが、この国で何が起こっているか知ることができなくなり、真実もわかりません」
押し潰されつつあるメキシコの“報道の自由”。それでも、暴力に抗い、命を懸ける記者たちがいる。
政治家の不正を告発した翌日に、銃で殺害されたロペス氏。母には、気がかりなことがあるという。

ロペス氏の母・ロマーナさん
「下の息子も記者なのです。すでに息子をひとり失ってしまいました。私は彼に記者をやめてほしいのです」
殺害されたロペス氏の弟・イルビン氏(35)も、記者の仕事をしている。

ロペス氏の弟・イルビン氏
「(Q.兄が殺されて記者をやめようと思ったことは?)いいえ、全く思いませんでした。私はこの仕事に懸けています。誰かを殺しても“報道の自由”を殺すことはできない。情報は報道されなくてはなりません。政治家になるということは、批判を受け入れることです」
彼は、家族のために注意しているとしながらも、「記者をやめようと考えたことは一度もない」と語った。
ロペス氏や家族と親交があったディアナ・マンゾ氏(39)も、遺志を継ごうと覚悟を決めている。全国紙の新聞社などで20年近く記者を続けてきた。調査報道などの賞も数多く受賞。自ら独立系ニュース・サイトを創設し、多くのメディアで記事を発表している。
この日も、継続取材している現場へと向かっていた。

ディアナ記者
「監視されているのでカメラを降ろしてください」
「どこで見られているのかわからないので、本当はこのインタビューを受けたくなかった。やはり怖いですね」

ディアナ記者の調査報道動画
「クリーンエネルギーの利益は全員に行き渡っていない」
風力発電所の建設プロジェクトをめぐる土地利用などの問題について、調査報道を続けてきた。
ディアナ記者
「メキシコはとても恐ろしい国なので、このような内容の記事を書くことは怖い。この仕事をやめて全てを投げ出したくなる。でも行方不明になった人などを目の当たりにすると考え直すのです」

環境活動家の知人も、いま行方不明になっているという。

ディアナ記者
「ロペスさんの遺志を引き継ぐためには、私は写真やビデオを撮り伝え続けなければなりません。私は書き続けます」