中米のメキシコでは、去年、記者の殺害が過去最多となり、暴力によって「報道の自由」が脅かされています。標的にされているのは、汚職や組織犯罪を取材し、政治家に批判的な報道をする記者たちです。何が起きているのか、現地を取材しました。
“報道の自由”が脅かされる ジャーナリストにとって「世界で最も危険な国」

メキシコの南部に位置するオアハカ。ここで、一人の著名なジャーナリストが殺害された。エーベル・ロペス氏(42)。突然、事務所に入ってきた男2人から5発の銃撃を受けた。頭に1発、胸に4発、即死状態だった。
2022年2月、ロペス氏の葬儀には多くの記者仲間も集まっていた。母の嗚咽が響いていた。
後日、母のロマーナ(63)さんが、取材に応じてくれた。

ロペス氏の母・ロマーナさん
「悪夢のようです。早く目が覚めればいいのに。とてもつらい。心に穴が空いたようです」
優しい息子であり、二人の子どもの父でもあった。
ロペス氏の母・ロマーナさん
「記者の仕事が危険だとは思っていましたが、まさか殺されるとは考えもしませんでした」
“息子の命は、なぜ奪われなければならなかったのか?”母は疑問を抱き続けている。
殺害前日にロペス氏に会い、当日も面会を約束していた友人の記者が、こう証言する。

新聞記者 ソレダー・マルティネス氏
「彼は自分のサイトに載せた記事を削除するよう要請されたと言っていました」

ロペス氏は自らのニュースサイトに、地元政治家の大型建設プロジェクトをめぐる不正疑惑を告発する記事を掲載した。その直後に政治家側から「削除」を要請された。だが、ロペス氏は拒んだ。
殺害されたのは、その翌日だった。動機は分かっていないが、逮捕された男の1人は、告発した政治家の親族だった。

新聞記者 ソレダー・マルティネス氏
「彼は常に問題を訴えていました。中央政府の権力者や市の代表らの行動について報道していた」
政治家の不正や行政の問題を鋭く批判し、告発を続けたロペス氏の殺害。こうした暴力が、記者たちを萎縮させていると話す。

友人の記者 ロドルフォ・カンセコ氏
「私たちは恐怖とストレスのなかで仕事をしています。もし私たちも目をつけられたら、彼のようになってしまいます」
新聞記者 ソレダー・マルティネス氏
「“報道の自由”は脅かされています。記者は危険な目に遭いたくないから、自由に報道しなくなっているのです」