「自分の命が心配です」大統領に危険を訴えるも…

そうした姿勢の大統領に、自らの身の危険を訴えていたジャーナリストがいた。地元政治家の汚職などを報じていたルルデス・マルドナド氏だ。

記者 ルルデス・マルドナド氏(2019年3月 当時67歳)
「私は自分の命が心配です。大統領が助けてくれなければ、地元の有力者に対抗することはできません」

この2年後、彼女は殺害された。

現場は、国境の街、ティファナの住宅街。安全ゲートも設置されていた。彼女は自宅に到着した後、家に入るまでの、わずかな時間を心配していたという。実際に、この間に銃撃されてしまった。

新聞記者 ヨランダ・モラレス氏
「ティファナの街は暴力によって支配されてしまったと思いました。殺害された記者について報じる私も、そうなってしまうかもしれない。と感じました」

殺害されたマルドナド氏は、与党の有力な政治家が所有するメディア企業とトラブルを抱え、裁判の末、数日前に勝訴したところだった。逮捕された男3人は、1人3000ドル(=約40万円)を受け取って犯行に及んだとされている。地元当局は、背後関係を捜査中としている。

親しかった記者には、悔やんでいることがある。

マルドナド氏の同僚記者 ソニア・アンダ氏(50)
「彼女に注意を向けてあげることができませんでした。昼間の警護が付かなくなったことを知りませんでした」

実は、殺害されたマルドナド氏は、政府の「メカニズム」と呼ばれる保護制度の対象だった。

「メカニズム」とは、2012年に、前の政権が創設した人権活動家とジャーナリストを保護する制度だ。

政府から、緊急通報ボタンや警察官のボディーガードなどが提供される。今の政権でも、制度は維持されている。

殺害されたマルドナド氏は、「夜8時からの警護」となっていたため、その直前の時間が狙われた。

この「メカニズム」の保護対象となっている記者の一人が、イグナシオ・サンティアゴ氏(33)だ。

地元の新聞社で、不動産取引に絡む疑惑を取材中、突然、男たちから暴行を受けたという。

保護対象記者 サンティアゴ氏
「両腕を折られてしまったのです。警察や救急隊によると、私は息をしていなかったのですが、救命処置により生還することができました」

この暴行を機に、「メカニズム」の保護対象となった。

保護対象記者 サンティアゴ氏
「これは、政府から渡されたパニックボタン。ボタンを押すと1分から5分で警察から連絡が来ます」

「パニックボタン」と呼ばれる緊急通報システム。

保護対象記者 サンティアゴ氏
「でも、ばかばかしい。役に立ちませんよ。本当に危険なことがあった場合、ボタンを押す時間はないからです。この装置では銃弾を止めることはできません」

さらに24時間365日の警察官のボディーガードも提供されている。

インタビューの4か月前、尾行された車から、突然、機関銃で銃撃された時には…

保護対象記者 サンティアゴ氏
「ボディーガードがいたので、何とか銃撃をかわすことができました。彼らは私に伏せるように言いました。それで最悪の事態は避けられました」

「メカニズム」の対象は、約1600人。うち500人ほどがジャーナリストという。だが、制度発足以来、保護対象にもかかわらず、9人が殺害された。そのほとんどが今の政権になってからだ。

保護対象記者 サンティアゴ氏
「いつも恐怖を感じています。メキシコで記者を続けることは、命懸けです

彼は、再び襲撃されるのではないか、との恐怖心から、これまで取り組んできた事件関連の取材を中断しているという。政府から提供されたボディーガードに付き添われ、専用車で、仕事に戻っていった。