「抱っこしませんか?」
きみちゃんは、ゆっくり羅希ちゃんを抱きかかえ、首が落ちないようにそうっとわたしの腕に預けてくれました。2500グラムを超えていて、ずっしりとした重さを感じました。ただとても、冷たかった。
「抱っこしてもらえて、よかったね」
きみちゃんは私に抱っこされている羅希ちゃんの顔を、優しく覗き込みました。
口数も笑顔も少なくなったちかさんと対照的に、きみちゃんは、いつもより笑顔でした。何度も羅希ちゃんに優しく話しかけ、顔を拭きます。こみ上げてくる感情を、隠そうとしているように見えました。
きみちゃんは、羅希ちゃんに宛てて書いた、手紙を見せてくれました。

「羅希へ
ぼくたちの間にきてくれてありがとう。うまれてくるのをたくさんの人たちとともにまってたんだよ。また天国で会おうね。
大切で大好きな羅希ちゃん!!
忘れないよ!!ありがとう!!」
病院から帰ってきて、真っ先に書いたといいます。
「泣かないっていうのは無理だと思うけど、なるべく…心配かけないでっていうか、『むこうで会おうね』って約束しながら送りだせたらなと思う」

2人は、それから2日間、羅希ちゃんと一緒に過ごしました。買っていた服を着せたり、近所に散歩に行ったり、羅希ちゃんの誕生を待っていてくれた周囲の人たちに会わせたりと、家族の思い出をたくさん作っていました。

1月2日。花やぬいぐるみと一緒に、小さな棺に入った羅希ちゃん。空へと、旅立っていきました。
羅希ちゃんは、心の中で…
その後も、わたしは何度か2人の家を訪れています。
羅希ちゃんがいた部屋には、骨壺が置かれていました。わたしが抱っこしたときに着ていたパーカーが、脱ぎっぱなしのように、置かれたままになっていました。絵本やお菓子は、増えています。

「おもちゃを見たら買ってしまったり、まだ実感がない」
「パーカーは洗うことができてなくて、もう少し時間がかかると思う」
きみちゃんは、仏壇の方を見つめながら答えました。
大晦日に会ったときも、不自然に笑顔が多かったきみちゃん。「我慢したりしていた?」と尋ねました。

きみちゃんは小さくうなずきました。