陸上競技の第107回日本選手権が6月1~4日、大阪市ヤンマースタジアム長居で行われる。8 月にハンガリーの首都ブダペストで行われる世界陸上2023の代表選考会も兼ね、3位以内に入った選手が世界陸上参加標準記録を破っていれば代表に内定する。

だが標準記録は世界的にも、極めて高いレベルに設定されている。日本選手権後に破った選手や、破れなかった選手でも8月2日以降に確定する世界ランキングで出場資格を得られた場合、代表入りすることができる。
本コラムでは、日本選手権で代表を決める可能性がある選手たちを中心に紹介する。

サニブラウンと真野は標準記録突破で代表内定だが、優勝を確実に狙う戦い方も?

昨年の世界陸上オレゴン入賞者は、今年1月1日以降にブダペストの参加標準記録を突破した時点で代表に内定する。日本選手権の成績は関係ない。
この基準を満たしたのが女子やり投オレゴン銅メダリストの北口榛花(25、JAL)で、4月の織田記念に64m50で優勝し、標準記録の63m80を突破。マラソン、競歩を除くトラック&フィールド種目では、現時点では唯一の代表内定者となっている。

北口以外のオレゴン入賞者は男子100m7位のサニブラウン・アブデル・ハキーム(24)と、男子走高跳8位の真野友博(26、九電工)の2人。

サニブラウンは世界陸上オレゴンの予選(7月15日)で9秒98をマークしたが、標準記録(10秒00)は昨年7月31日以降が適用期間。さらに日本国内の選考基準で、内定するには今年1月1日以降に突破しなければいけない。今年のサニブラウンは米国で2回走ったが、ともに10秒1台で、それも追い風参考記録。日本選手権で内定するには10秒00以内で走る必要がある。

19年は米国の学生シーズンに合わせたため、5月に9秒99、6月に9秒97(当時日本新)を出した。その後プロに転向し、昨年は6月の日本選手権がシーズン初の10秒0台で、7月の世界陸上で9秒98をマークした。今年も日本選手権からギアを入れていくはずだ。

真野は2m32の標準記録を日本選手権で跳べば、順位に関係なく代表に内定する。しかし今季は、5月21日のゴールデングランプリ(以下GGP)での2m25がシーズンベスト。冬期にアップした筋力やスピードに、踏み切りを合わせられていない。

しかし標準記録を跳べなかった場合でも、Road to Budapest 23で走高跳のエントリー人数枠の36人に入れば、世界ランキングが確定する8月2日以降に代表に選考される。Road to Budapest 23は1国3人までカウントの、標準記録突破者と世界ランキングの上位選手リストで世界陸連が集計している。

真野は5月26日時点でRoad to Budapest 23の15位につけている。日本選手権は世界ランキング用の順位ポイントが高い大会。つまり2m25に成功したとき、2つの戦い方の選択肢がある。1つは絶好調と自覚できたときで、2m29をパスして2m32の標準記録に挑戦する。もう1つは順位を確保することも考えて2m29を、失敗試技数を少なくできるように跳んでいく。
代表選考システムを把握して観戦すれば、真野の選択の意味を理解できる。

泉谷、三浦、吉田ら標準記録突破済み選手は3位以内で代表内定

標準記録突破者は日本選手権で3位以内に入れば代表に内定する。しかし標準記録は世界的に高いレベルに設定されているので、突破者は多くない。

【世界陸上ブダペスト参加標準記録突破者】
<男子>
■110mハードル・13秒28
泉谷駿介(23、住友電工)13秒07
髙山峻野(28、ゼンリン)13秒10
村竹ラシッド(21、順大)13秒25

■3000m障害・8分15秒00
三浦龍司(21、順大)8分12秒65

■走幅跳・8m25
吉田弘道(23、神崎郡陸協)8m26

<女子>
■100mハードル・12秒78
福部真子(27、日本建設工業)12秒73

※世界陸連が定めた適用期間は22年7月31日以降

残念ながら村竹は左半膜様筋肉離れのため欠場するが、他の選手たちは3位以内に入って代表に内定する可能性が高い。
GGPで13秒07の泉谷と、同大会で13秒25の髙山は、故障などで調子を落とさない限り3位以内=代表入りは確実だ。

三浦は大学入学以後、3000m障害では日本人選手間で負けていない。だからといって守りに入らず、自分のペースでレースを進めるだろう。2年前の日本選手権では転倒しても優勝した。三浦の代表入りも間違いない。

吉田は助走スピードの速さが特徴だが、記録が安定しない傾向もある。GGPでは8m26を跳んだが、前戦の木南記念では7m67で7位だった。日本選手権は3回目までに7m70~80以上を跳ぶことが、ベストエイトに進むために必要になる。ベストエイトに残ればGGPのように、後半の試技でしっかりと8m以上を跳び代表を確定させるだろう。

しかし女子100mハードルの福部は、GGP3位と不安を残した。寺田明日香(33、ジャパンクリエイト)、田中佑美(24、富士通)、青木益未(29、七十七銀行)と12秒90未満を持つ選手が4人もいる種目。オレゴンで準決勝に進んだ福部といえど、調子が上がらなければ3位に入れないかもしれない。