「とにかく勝ててよかった。夜空に浮かぶ花火を見たとき、もし負けていたら・・・と想像してしまいました」
4月1日、東大阪市の花園ラグビー場。高校ラグビーの聖地に、久しぶりにナイター照明が灯った。天候等の影響で、試合進行が遅くなったときの全国高校ラグビー大会を除けば、およそ3年ぶりのナイトゲーム。2019年のワールドカップでさえ、すべて日中に試合が組みこまれたこの地で、ナイター開催が実現したのは、この日の主役が、特別なチームだったからに他ならない。
その名は、花園近鉄ライナーズ。この花園ラグビー場を創設、過去3回の日本選手権優勝をはじめ、数々の日本代表選手を輩出してきた近鉄を母体とする名門チームだ。その実績は、まさに関西の社会人ラグビーの歴史といっても過言ではない。実に関西社会人リーグ優勝17回、全国社会人大会は全55回大会のうち53回出場して優勝8回。同志社大学で大学日本一に輝いた林敏之、平尾誠二といったスター選手が、神戸製鋼ラグビー部で栄光の歴史を積み上げる前から、関西のラグビーを中心となって盛り上げてきた存在だ。
ディヴィジョン2からスタートした花園近鉄ライナーズ
ただ、今年から始まったラグビーの新リーグ・ジャパンラグビーリーグONEでは、近年の成績が反映されて、2部リーグにあたるディヴィジョン2からのスタートを余儀なくされる。“近鉄漢-KINTETSU MAN-”と名付けられたこの日の試合は、ディヴィジョン1昇格を争う順位決定戦前の最後のホストゲーム。気温10度を下回る肌寒い天気の中、名門の復活を信じて疑わない、ラグビーを愛するファンが大勢つめかけた。
その観客を前に、ライナーズは、試合開始から日野レッドドルフィンズを相手に、気迫のこもったプレーを披露する。
チームが今年から取り組んでいる、自陣からでもパスつないでいく攻撃的なラグビーを展開。開始10分、幸先よく先制のトライを奪う。しかし、その後は何度もチャンスを作りながら、あと一歩のところでミスが出て、なかなか得点に結びつけることが出来ない。逆に、少ないチャンスをいかされて、レッドドルフィンズに同点、そして逆転を許してしまう。後半に入っても、最後のところでボールがつながらない。攻め込みながらボールを失ったところを逆襲されて、残り23分、ついに7対21と点差を拡げられてしまう。
そんないやなムードを動かしたのが、3700人を超える観客からのホームチームを鼓舞する熱い拍手。ラグビーをよく知る観客が、一つ一つのプレーごとに、メリハリをつけて、ライナーズの選手たちの気持ちを盛り上げていく。
力強い応援に後押しされたライナーズ、ここから、チームキーワードである“感動”の名のとおり、魂を揺さぶる試合を展開していく。差を拡げられてから4分後、自陣ゴール前からボールをつないで逆襲、ロックのサナイラ・ワクア選手が反撃のトライを奪うと、29分には、日本代表でもあるセンターのシオサイア・フィフィタ選手がトライ、17対21と4点差に迫る。そして残り時間が少なくなった36分、自陣深くから、フランカーのワイマナ・カバ選手がボールを持ち出すと、ミスなくボールをつないで最後は、ウイングの木村朋也選手が50メートルを走り切ってトライ。鮮やかな逆転劇で、ライバルを振り切った。