4月7日に開かれた新体制の方針説明会で「クルマ屋らしくトヨタらしいモビリティの未来がある」と語った佐藤恒治新社長。
あえて「クルマ屋」という言葉を強調する背景を紐解くと、開発しようとしているEVの姿が見えてきました。
(前編・後編のうち後編)
EV戦略のカギは「クルマ屋」であること!?
ーー就任から「クルマ屋」という言葉を意識的に使われている印象があります。この「クルマ屋」が作るバッテリーEVは、いま世の中で数多くあるEVとはどう違うのでしょう。
クルマの持ってるその原点にある価値って、例えば移動の喜びであったり、運転の楽しさであったり、安全で安心に使えることであったり、いろいろあるそのクルマの原点価値みたいなものは、失わずにその価値を拡張していくということが今我々がやらなきゃいけないこと。車からモビリティに進化をさせていくということだと思うんですね。モビリティとして進化するっていうのは、車の付加価値を高めていくということなので、あまり付加価値領域の方にだけにフォーカスをしすぎると、本来クルマが持つべき価値を見失いがちなので、我々はクルマであるという1丁目1番地を忘れずに、そこを大事にしながら、クルマの付加価値を高めていきたい。
ーーバッテリーEV台数、バッテリーメーカーやIT業界発の企業が上回っていますが、今あるEVとは違うものを作ろうとされている?
要するにクルマである以上はクルマなんですよね。だけどそのクルマにも味があり、個性があって、それを所有する喜びみたいなものがそれぞれに違うわけです。例えば料理でスパゲッティが好きですと言われたときに、全部スパゲッティは同じ味にはならないんじゃないですか。だから我々らしいバッテリーというのを作っていきたいというのは根っこにあって、それはやっぱり移動の価値を高めていくだけではなくて、そのクルマとしての本質的価値を高めていく。なかなか口頭で「今までのバッテリーEVと我々のバッテリーEVの違いですよ」というのを会話の中でお示しするのは非常に難しいので、形で示していく必要があると思います。
僕はずっと「クルマを作り続ける社長でありたい」ということを申し上げてるんですけど、形で実践して示していくこつと。それが我々らしいあり方の示し方だと思っているのでもう少しお時間いただいて、形で示していきたいと思います。
100年に一度の大変革期のなかで、雇用はどう守る?
ーー自動車産業は雇用550万人。ガソリン車からEVなどへの置き換わりが進んでいく中でどうやってサプライヤーも含め雇用を守っていくお考えですか?
市場の進展を予測していく中で、急速にバッテリーEVに進んでいく地域と、なかなかそうならない地域ってやっぱりありますよね。グローバルに見ていったときに、我々が持っている既存の事業領域の1000万台規模のクルマの産業の力というのは大きくあります。段階的に電動化のカーボンニュートラリティに向けてシフトしていく中で、それぞれの会社が持っている専門技術力というのは当然いろいろおありなので、その専門技術力が電動化シフトをしていく中で、どうやって形を変えて使っていけるのかというようなことを一緒に考えながら、確実にプラクティカルな電動化シフトを促していくということだと思うんですね。そういう意味では、その部品の形が変わったり、物が変わったとしても、その会社が持っている技術、専門性みたいなものは、多様な物を生み出すエネルギーなので、そういうところに着目しながら一緒に考えていくという考え方です。
ーー一緒に考えて、一緒に生き残っていく。そういうことを目指してるのでしょうか?
クルマというのは、トヨタ1社で作れるものではありませんし、多くのサプライチェーンの中で、多くのパートナー企業とクルマというのは作られている。これまでその専門技術力をベースに、いわゆるクルマというものの概念が固定的なときは、その専門技術力を生かして、提案型で改善改善で次の車ができていくという時代がありました。
ただ、これから大きくクルマのアーキテクチャが変わっていく中で、クルマがどうなっていくのかという姿をお示ししながらであれば、「こういう技術が使えるね」とか、「こういう部品を作る必要があるね」ということを、ともに考えながら改善をしていく。そういうスキームに入っていくんだろうなというふうに思います。