4月6日にゴルフの祭典「マスターズ」が開幕する。1934年にはじまり、今年で87回を迎えるマスターズはゴルファーなら誰もが憧れる夢舞台。これまでに数々のドラマが生まれたオーガスタで、優勝争いをするなど過去11回出場、解説は25回目となる日本のレジェンド中嶋常幸プロが名場面を振り返った。

中嶋常幸プロ:
オーガスタは1日にしてならないと思う。今までの歴史っていうか年数っていうか、いろんな場面が思い出としてすぐ出てくる。やっぱり名場面というのがオーガスタには散りばめられている。オーガスタの歴史にはね。

空気が揺れるから、俺のパット外れちゃうかも【1986年 ジャック・ニクラウスが最年長46歳2か月23日優勝】

中嶋プロ:
このとき、自分も調子が良くて、最終日にジャック・ニクラウスの後ろ(の組)で回って(中嶋プロの結果は8位タイ)、その後ろがセベ・バレステロス(マスターズ2勝)だったんだけど、最年長(46歳2か月23日)優勝だったよね、ニクラウスのね。このサンデーバックナインは、凄かったね~。ニクラウスに対しての声援が、もうオーガスタの空気を揺るがすのよ。うん。
あのとき、5万人以上のパトロンが来てたんじゃないかな。5万人以上の観客がいて15番のイーグル、あの辺から「ニクラウスの優勝があるぞ!あるぞ!」って、もうゴルフ場全体、コース全体に漂ってきた。

16番でホールインワンをしそうなスーパーショットで、もうそれでMAXになったわけだ期待が。あのバーディーパットのときに、ちょうど僕は15番でバーディーパットを打つときだったんだけど、打てなかったもん。
もう空気が揺れるから、俺のパット外れちゃうかもしれないと。そのぐらいゴルフトーナメントで、あとにも先にもここまで自分が経験した、その盛り上がりっていうか、興奮というのは初めてだったね。そのニクラウスの優勝を後ろから見られたっていうのが自分にとってはもう思い出深い86年の大会だった。

インタビュアー:
空気が揺れるってどんな感じですか。

中嶋プロ:
イメージ的にはよくサッカーのワールドカップのスタンドだとかWBCもそうだけど、やっぱりすごい大会って声援が揺れに変わるの。その揺れってのは空気なのか地面なのかちょっとわかんないけど多分、測る機械を置いたら揺れてるってなると思うよ。それは凄かった。


「もう俺の時代だ!」そういう予感をさせる大会だったな【1997年 タイガー・ウッズの初優勝は史上最年少21歳3カ月】

中嶋プロ:
大会が始まる前からタイガー・ウッズが優勝候補に挙げられてた。その当時ナンバーワンだったニック・ファルド(マスターズ3勝で前年王者)と同じペアリングでスタートしたわけだけど、この初日、前半40(ストローク)打ってるのよ。やっぱりタイガーも、その当時のナンバーワンのニック・ファルドと回ると、こうなっちゃうのか。みたいな。もちろんね、すごい成績でプロに入ってきてプロになって初出場でマスターズの優勝候補にまでなって出てきた試合だったけど、いや40、打っちゃうのかあ・・・と思ったらバックナインは30。アウト40、イン30で70。この1ラウンドで逆に世代交代をさせられちゃったっていうか、ニック・ファルドに言葉はちょっと過激かもしんないけど、引導を渡したというか、もう君の時代ではないですみたいな。そういうゴルフを見せつけたよね。

18番なんかも、そんな近くまで行っちゃうのっていうところからセカンドを打って。優勝したのはすごいことなんだけど、最年少優勝で、優勝した最終日も素晴らしいプレーだった。あの初日のバックナインこそ、タイガーの何て言うかな「もう俺の時代だ」みたいな、そういう予感をさせる大会だったなという気がする。

インタビュアー:
現役の一流選手でも、タイガーは違うなって感じですか。

中嶋プロ:
違うね。とにかくオーガスタに自分も11回出場したけど、打つ場所が違いすぎる。こんなところからセカンド打つの?みたいな。グリーンを外したときの難しさっていうのもわかってるじゃない、グリーンを外したときにそんなに寄せられるのとか、そんな寄せ方ができるのとか。

インタビュアー:
ニクラウスの凄さとは全然違いますか。

中嶋プロ:
ニクラウスの優勝はまだ想像がつくんだよね。ニクラウス独特の集中力の極みというか、15番のイーグルにしても16番のティーショットにしても、もう集中力の極みで想像できるんだけど、タイガーは違うじゃない。16番の左からのアプローチが入ったやつ(2005年)を見ても、集中力って言葉ですまないよね。持ってるよね。本当にこの人は本当にゴルフの神様に、もう愛された、好かれた。もう何て言うかな、ゴルフの神様にちゃんと守られてる人だなっていう気がするね。