日本人が勝つ日が来るのかな、そういう思いがずっとあった【2021年 松山英樹の優勝】

中嶋プロ:
僕が解説を1999年から始めさせてもらったんだけど、自分も出場してベストテンに入ったり(86年8位タイ、91年10位タイ)、もちろん片山晋呉くんと伊澤利光くんが4位に入ったり、そういうアジア人でもベストテン以内に入って戦ったことはあるんだけど、難しさをわかってるがゆえに日本人が勝つ日が来るのかな、とそういう思いがずっとあったのね。ずっと解説をしながら、松山くんが出たときに、アメリカツアーに参戦して、ほどなくメモリアルトーナメントに優勝して意外にあっさり勝った。その後、フェニックスオープンだとかいろんな試合に勝っていく中で、彼なら可能性がある、っていうふうに思えてきた。思えてきたんだけど、もちろんね、本当に優勝に届きそうなシーンが2回あったよね、彼が(マスターズの)優勝をする前に。でも跳ね除けられて優勝に届かなかった。

【松山の成績】
2011年 27位タイ※ローアマ
2012年 54位タイ※アマ
2014年 予選落ち
2015年 5位
2016年 7位タイ
2017年 11位タイ
2018年 19位
2019年 32位タイ
2020年 13位タイ
2021年 優勝
2022年14位タイ

※松山は2021年、マスターズの前に10大会に出場し、2回の予選落ち。WGCワークデイ選手権の15位が最高だった。

中嶋プロ:
やっぱり、英樹でもマスターズは難しいんだな、という気持ちになってたときに、あの週は、つきものが落ちたように「松山英樹」っていう選手が素直にオーガスタに立てたような気がする。あの年もそんなに調子が良いシーズンじゃなくて、もう苦しみながら前の週まで戦って「なんで俺、こんなイライラ、怒りまくってるんだろう」っていうようなことを言っていた。

大会に入っていって、いろんなところで幸運もあった。木に当たったものがフェアウェイに出てきたり、難しいセカンドがサスペンデッドになって少し間を置くことができたり、本当に今考えるとすごい幸運がついてた。もちろんメジャーというのは幸運がないと勝てないって僕は思ってるのね。そんな中で、いよいよ13番が終わった段階で5ストロークの差ができたんだよ。一瞬、これ本当に勝つんだなと。本当にその日が来るんだなっていう期待で、もう放送席にいながらそれを目撃するんだ、日本人の優勝を目撃するんだっていう気持ちになれた。

でも5打差だから、どんな感動があるんだろう。5打差というのはいかにラク、余裕があるかっていうことを考えたときに、あんな結末が待ってると思わなかったね。
全ては15番から始まったよね。やっぱり彼といえども、もうパンプアップしてアドレナリンが出まくって、もう加減できなくなっちゃった。15番の第2打を3番アイアンの飛距離だったら刻もうというふうに思ってたらしいけど、4番アイアンの距離が残ったよね。

220(ヤード)ちょっとかな。だから4番でちょっとしたカット(ショット)が打てない。もうそれは自分が86年に優勝のチャンスがある中で13番のセカンドで何も加減ができなかった。もうただ打つしかないガーンと打つしかないっていう状況が全くそっくりだったの。うわーこれきちゃったかあと思って。多分、練習場で打ってたら最高のショットだと思う。これ以上ないっていうぐらい飛んでっちゃった。もうフェードもしないで、まっすぐ飛んでいってグリーン奥に一番落ちちゃいけないところだと思う。それがグリーン奥の池に入って、(ザンダー・)シャウフェレは、ひたひたくるし、シャウフェレに何か流れがちょっと傾きかけちゃった。あの15番で「うわ〜ダボにならないでくれ」っていう気持ちしかなかった、もう祈るような思い。

あのめちゃくちゃ難しい奥からのアプローチで、出場した選手はわかってるわけ。もうこれめっちゃ難しいよね、これ半端じゃないよね。だけど、きっちりとボギーでホールアウトできた。16番でシャウフェレが池に入れて。これで勝てるのかなと思った瞬間に2組前を回っていた(ウィル・)ザラトリスはもうホールアウトして2打差で、もうこれ以上落ちようがない。伸びようもないけど落ちようもない。2打差で2ホールだよ、こんなもうオーガスタなんてすぐダボも出るんだからやばいじゃん!って。

17番のティーショットを打ったときに、ひと息ついて、セカンドを打って、ふた息ついて、18番のフェアウェイにティーショットを打った瞬間に「いよいよ来る、これが来るんだ」でも2打差でも左外すな手前のバンカー目玉になるな、それしか願ってなかった。で、セカンド、右のバンカーに入れた瞬間に「あ、勝った。よかった。これで1打差で勝てる。悪くても1打差で勝てると。あのセカンドを打ったときに「苦しかったな」ってやっぱり苦しかったんだなっていうのを感じたよね。やっぱりその苦しさを乗り切った英樹を見てると、あのね、支えてきたチームもそうだし、飯田(光輝トレーナー)の号泣を聞いた瞬間にこちらも涙腺のダムが崩壊してるみたいな(笑)

本当に楽勝が一転、もう本当にきつい試合になったっていうのが、もう英樹のあの優勝だったね。だけどやっぱりマスターズはドラマだよ。やっぱり毎回ドラマがある。あれが5打差で勝ったら、たいしたドラマじゃなかった。それはすごい試合だったね。

インタビュアー:
もしかしたら泣いてなかったかもしれないですよね。

中嶋プロ:
5打差だったら泣いてない。もう一つ言っとくけど2回目の優勝は泣かない(笑)
「また泣くんですか?」ってみんなに聞かれるけど、泣きません。