戦争を遂行するロシアの中枢といえばパトルシェフ、ポルトニコフ・・・、KGB出身の高齢者たちが思い浮かぶ。確かに政治・外交・軍事面では今もそういった面々がプーチン氏を支えている。
しかし、経済面では全く違うタイプの人材が次々と登用されている。彼らにはある共通点があった・・・。知られざるロシアの人材発掘、その実態に迫る。
「彼らは、優秀であるが故に“横から”政府に入れた」
プーチン氏は常に西側の制裁で疲弊するのは西側であって、ロシア経済は揺るがないと豪語してきたが、現在ロシアの財政収支は3ヶ月連続で赤字だ。
ディスカウントしなければ売れないロシア産原油、パイプラインの破壊で輸出できなくなった天然ガスなど・・・、エネルギー収入は軍事侵攻前の半分に激減していることが主な理由だ。
ロシア財政の準備金ともいえる『国民福祉基金』の資産残高は11兆ルーブルとされるが、財政赤字の穴埋めで6か月後には底をつくとも言われる。
この危機的財政への対策として『国庫の破綻防止』のための経済防衛策が4月1日施行される。これは原油のディスカウントによって少ない税金しか払っていない石油会社に対し、課税対象額を世界的指標である『北米ブレンド』に合わせるものだ。これにより税収はかなり増える。
他にもエネルギー市場の新規開拓など多岐にわたる経済対策が推し進められている。
これら『国庫の破綻防止』をプーチン大統領に託された二人の人物がいる。いずれもプーチン氏の秘密兵器といわれる若きエリートだ。
ひとりは32歳でエネルギー省第一次官に抜擢されたパーヴェル・ソローキン氏。
もう一人は財務省サザーノフ次官。彼も37歳で財務次官に抜擢されている。


彼らはロシアの官僚組織では“異質な存在だ”とベルギーのアナリスト、カトナ氏は語る。

エネルギー市場分析会社『ケプラー』チーフアナリスト ビクター・カトナ氏
「彼らは資本主義システムで育てられ、そのシステムの中で最初の成功を収めた。資本主義的で、非常に厳しい競争の中で身に着けたビジネスセンスを持って政府の高官となった。ロシアで出世するには初めから政府の中でキャリアを積む必要があったが、彼らは別の場所でスタートして優秀であるが故に“横から”政府には入れた。これはこれまでにない展開だ」
ソローキン氏は、ロンドン大学で金融の修士号を取得し、モルガン・スタンレー銀行のトップアナリストだった。サザーノフ氏はオックスフォード大学でMBAを取得している。西側を知り尽くしたエリートたちは今回の戦争でも、経済面で大きな貢献をする。これまでのロシア型の高官たちは西側の経済制裁に対応するアイディアを持たなかった。

エネルギー市場分析会社『ケプラー』チーフアナリスト ビクター・カトナ氏
「ソローキンもサザーノフもオレシキンも皆、制裁下でロシアが何をすべきかアイディアを持っている。彼らの重要性と影響力は非常に大きくなっている。石油産業や制裁対象となっている部門を導くことは他の誰にもできない。だからロシアの政界で彼ら若きテクノクラートへの信頼が高まっている。今回の危機が彼らを後押しした」

ソローキン氏、サザーノフ氏に続いて名前が出たオレシキン氏とは現在の大統領補佐官であり、34歳で経済開発大臣に任命されている。経済制裁でルーブルが暴落した際、天然ガスの代金をルーブルで支払わせることでルーブルの価値を守ったのが、このオレシキン氏だ。彼もまた西側で学び、フランスの大手銀行『クレディ・アグリコル』のスターアナリストだった。実はロシアには、こうした次世代を担うエリートを発掘するシステムがある・・・。