世界遺産の撮影をしていると、「どうやってこんなものを作ったんだろう」とビックリする建造物に出会います。
ワインのために! 断崖に命がけで作った6700キロの石垣
北イタリア、チンクエ・テッレという所もそのひとつ。地中海に面した断崖絶壁に石垣が延々と築かれ、なんとその長さはのべ6700キロにもなるのです。チンクエ・テッレとは「5つの町」という意味で、空から撮影すると海岸沿いの崖にへばりつくように町が点在しているのがよく分かります。19世紀に鉄道が通るまでは、この地は船でしか行き来できない「陸の孤島」でした。

そんなところでもワインを作りたいのがイタリア人。何世代もかけて崖に石垣を築き、断崖を一面のブドウの段々畑に変えたのです。古いフィルムには、命綱をつけて絶壁を降り、石を積む人々の姿が残っていました。
元々、この断崖には岩が多く、それを切り崩してはひとつひとつ積み上げていく・・・気の遠くなるような過酷な作業を営々と続けて、総延長6700キロにもなる石垣が出来あがったのです。イタリアの農民たちが命がけで作り上げた段々畑は、「人がつくった絶景」としての価値が認められ、世界遺産になりました。
こうした場所の撮影で、最も威力を発揮するのがドローンです。人が暮らしているため、ヘリコプターでは高度制限があり、かなり離れた上空から撮影することになります。ドローンであれば、もちろん許可は必要ですが、断崖すれすれに石垣と段々畑に沿って飛び、ダイナミックなカメラワークで撮影することができます。

断崖が生んだ、日本にも輸入される白ワイン
実は、急斜面に作られた段々畑は水はけが良く、ブドウ作りに最適。昔ながらの石垣を、現代になっても修復し使い続けているのは、セメントを使って固めると水はけが悪くなってしまうからです。ただし急斜面のため、ブドウの収穫は機械で行うことが出来ず、みんなで手摘みしていきます。こうした人々の努力があって、チンクエ・テッレは今では「白ワインの里」と呼ばれる名産地になりました。爽やかでフルーティな味わい・・・日本にも、この断崖が生んだ白ワイン「チンクエ・テッレ」は輸入されています。
「人がつくった絶景」は他にも。トスカーナ州オルチャ渓谷
イタリアには他にも、「人がつくった絶景」として世界遺産になった所があります。トスカーナ州のオルチャ渓谷です。

なだらかな丘がつづく田園地帯で、初夏になると青い麦畑が一面に広がり、ため息が出るほど美しい風景になります。緑の大地にアクセントを付けているのが、点々と続く糸杉の並木。空から撮影すると、田舎道の直線や曲線に沿って植えられた木々が、絵画のような景観造りに一役買っていることがよく分かります。
しかし、かつてここは今とは似ても似つかない、荒涼とした不毛の大地でした。本来の土壌は粘土質で、農業には向かないものだったのです。それを何百年もかけて家畜の糞をまぜるなどの土壌改良し、作物を作ることが出来る土地に変えていきました。今でも、所々に灰色の粘土の小山があって、青い麦畑を一枚めくると現れるはずの粘土層を見ることができます。

オルチャ渓谷ではブドウも作られていて、こちらは赤ワインで有名なモンタルチーノの生産地です。古代ローマから続くイタリア人のワイン造りへの想い・・・それが6700キロの石垣を生み、不毛の荒れ地を美しい田園へ変身させたのです。
極めつけの「人がつくった絶景」 海上都市ヴェネツィア
もうひとつ、極めつけの「人がつくった絶景」の世界遺産がイタリアにはあります。イタリア半島の東側の付け根、アドリア海に浮かぶ海上都市ヴェネツィアです。