「金のない人、腹減らして待っとる人をタダで食わすためにこの店を始めた」
オープン4日前の2月27日に店を訪ねると、井上さんは開店準備に追われていました。新しい店はカウンター10席のみ。商店街の空き店舗を改装した小さなお店です。
(いのうえの餃子 井上定博さん)
「この店は儲けるためではないねん。金のない人、腹減らして待っとる人をタダで食わすためにこの店を始めた。(Qなぜお金のない人に食べさせたいと思った?)それは僕がよく言う順繰りやね。昔、僕にそういうことをしてくれはった人がいた」
井上さんは20代のころ、妻と駆け落ち。金銭面に苦労する若い夫婦に職場の仲間がすきやきをごちそうしてくれたことが今でも忘れられないといいます。
井上さんは受けた恩を若い人たちへつなごうと、店長を務めていた「餃子の王将 出町店」で『皿洗いで食事無料』を始めました。
70歳でフランチャイズオーナーだった出町店を閉めるまで約40年間続き、多くの苦学生らを満腹にしてきました。
しかしリタイア後、不安定な社会で苦しむ若者が増えていることを知り、再び厨房に立つことを決めたのです。
(いのうえの餃子 井上定博さん)
「腹が減って寒いのは絶対あしたにつながらへん。寒くてもここに来ておっさんにタダで山盛り食わせてもらったら、あしたもやろうかという気分になるねん。俺ほんま構いやねん。家族は大反対。去年の6月から妻と会っていないんですよ、商売すると言ったら。腹すかしている学生がおる、金もない人もおる、これを助けるほうが、こっち(店)のほうが重たい。そやからこっちをとったんや」
大病を患うなど体調を心配する家族は反対。それでも信念を貫きます。