■ウクライナの情報機関はCIAが全部指導して鍛え上げた

旧ソ連の一員だったウクライナにはKGB(ソ連国家保安委員会)の“分家”ともいうべき情報機関SBU(ウクライナ保安庁)がある。当時は“KGBのウクライナ支局”とも言われていたというほど親ロ派が多い組織で2004年親欧米派の大統領候補ユシチェンコ氏をダイオキシンで殺害しようとしたのもこのSBUだとされている。しかしその10年後、親ロ派政権に反対したマイダン革命で潮目が変わった。

春名幹男 元共同通信ワシントン支局長
「この2014年にヤヌコビッチという大統領がマイダン革命で国を出ていかざるを得なかった。この時に当時のSBU長官と複数人のSBU幹部を連れて逃げちゃったんですよ。ここからSBUは下り道をガーっと降りていくんです」

大統領府とSBUというウクライナの中枢で力を失ったロシア。クリミア併合、東部ドネツク州への影響力の強化などウクライナのロシア化を外側から始める。一方でアメリカは親ロ派が抜けた後のSBUに接近したという。しかし・・・。

春名幹男 元共同通信ワシントン支局長
「アメリカがSBUのテコ入れを始めるんですが、そこには西側の情報機関が普通に持っているようなシステムがなかった。つまり、人材をリクルートしてスパイを育てるにしても、その人のバックグラウンドを調査、いわゆる“身体検査”もしてなかったんですよ。情報機関として必ず持たなければいけないオペレーションと分析、これらをCIAが全部指導して鍛え上げたんです」

つまりウクライナの情報機関は、“KGBウクライナ支局”から“CIA門下生”に変身したのだった。

■身元不明ロシアで内部告発か…「出口戦略もお粗末で、6月には経済は崩壊する・・・」

一方、ロシアの情報機関内で軋みがあるのではとうかがわせることも起きている。
ロシア発メッセージアプリ『テレグラム』というメディアがある。その中で、“SVR将軍”と名乗る人物から内部情報が暴露されているのだ。SVRは対外情報庁といって旧KGBの対外諜報活動を担い、今もロシア内で力を持つ機関。この発信者の正体は不明だが、毎日15時に更新される情報は詳細にしてリアル。近くにいないと知りえないような情報もある。例えば…。

▼4月21日、黒海艦隊旗艦モスクワ沈没に際し
「プーチンは側近らがこれまで見たこともないような怒りを爆発させ公邸の家具やテーブルを壊した…」
▼4月22日、軍事作戦の行方に不満を持ち
「ショイグ国防相を計画失敗の主犯格だと考え、軍服を着させなかった…」
▼5月4日、パトルシェフ氏がプーチン氏に話した
「化学兵器をウクライナ軍が使用したことにすればロシア国民総動員の口実になる…」


専門家によれば単なるいたずらとは考えにくいという。

拓殖大学 名越健郎 教授
「SVR将軍という人は海外にいて、国内の現役の情報関係者から集めた情報を発信しているようだ。一時期抑圧されたが、また発信し始めた。海外発信なので止められない。『テレグラム』はロシア人が開発したアプリだが、内容にリアリティーがある。例えばモスクワの沈没でロシアは30人が犠牲になったと発表したが、『テレグラム』では130人になっている。この数字のほうが事実らしい。プーチンの病気も3つあると・・・。それは甲状腺がん、パーキンソン病。これはメディアでも非公式ながら報道されているが、もう一つ統合失調感情障害という病気があるらしい。(中略)情報戦の一環かもしれないが、イギリスの報道なんかは真っ先にこれを取り上げている」

もしもリアリティーがあるとするなら、この暴露ともいえる内部告発はなぜ発信されているのか?国民や軍ならまだしも、情報機関はプーチン氏の本丸。最も信頼できる組織ではないのか?

拓殖大学 名越健郎 教授
「KGBを前身とするロシアFSBのスタッフが、海外に逃亡した反体制派のホームページに手紙を投稿している。そこには『今回の軍事作戦は杜撰で、初戦で大量の死者を出している。出口戦略もお粗末で、6月には経済は崩壊する・・・』とか相当辛辣なことを書いている(中略)プーチンと情報機関は一蓮托生だったが、今回のウクライナ侵攻から不協和音が出始めている」

さらにFSBの第5局ではトップが収監され、情報員約150人が追放された。理由は、侵攻前にウクライナの情報を正確に報告しなかった責任とも、情報員の中に西側のスパイがいたとも伝えられている。プーチン氏にいま信じられる腹心はいるのか…真の一蓮托生は、パトルシェフ安全保障会議書記、ボルトニコフFSB長官、ナルイシキンSVR長官だけなのかもしれない。

笹川平和財団 小原凡司 上席研究員
「上の4人は結束を崩さないだろう。過去に何をしてきたかお互い知っているから離反したら自分の犯罪行為を暴かれるから。でも第5局というのはソ連崩壊後に独立した国が親ロ派であり続けるための工作をする部局だと聞いている。なので相手の国がどういう状況なのかよく見ている。だからプーチン氏の妄想通りにはならないこと、現実が分かっている…」

“KGB政権”とまで言われ情報の取扱いに長けたプーチン氏。屋台骨である情報機関の情報力が亀裂のきっかけになるかもしれない。

(BS-TBS 『報道1930』 5月4日放送より)