「国の通信規制機関には独立性が重要だ」
放送法の誕生はテレビの誕生よりも古い。太平洋戦争の時代、放送と言えばラジオから流れる“大本営発表”。一般の放送もすべて厳しい検閲下にあった。当時の検閲の例には、童話の放送で犬の心情として描かれた「ああ、うんとおいしいものが食べたいなァ」というセリフがカットされたこともあった。

この例にもれず、戦前はこうした検閲によってメディアを支配、軍とメディアが一体化し戦争を推し進めた…GHQはそう判断、これを教訓として生まれたのが放送法だった。
放送法を作るための関係文書に書かれていたのは、政治的な団体、個人いかなるものからも支配を受けることなく、自由独立なものでなければならない。政府が干渉すれば放送が御用機関になり、戦争中のような恐るべき結果になるなどの言葉。放送法が成立した1950年には政府から独立して放送局を監督する「電波監理委員会」も設置された。
因みにアメリカには大統領の意向にも従うことのない独立機関が今もある。FCC(連邦通信委員会)が独立して放送や通信、インターネットの規制・監督を担っている。オバマ政権2期目にFCCの委員長を務めた人物に話を聞いた。
元FCC委員長 トム・ウィーラー氏
「具体的内容は言えませんが、私が委員長に就任してすぐ、ある内閣長官も関心を持っている問題が起きました。FCCが決定権を持つ問題でした。長官とも話してある結論を出しました」

ウィーラー氏は適切に判断し、指示を出した。ところがその後、ホワイトハウスから、その判断は好ましくないとクレームがついたのだという。つまり大統領がNOと言ったのだということだ。しかし、彼はその意向に従わなかった。
元FCC委員長 トム・ウィーラー氏
「私は当初の予定通り問題に対応し上手くいきました。独立した機関として政府の許可を得ることなく決定を下すことができるのです。国の通信規制機関には独立性が重要だと考えます」
放送と権力の関係…トランプ政権時代にもこんなことがあった。トランプ大統領がテレビ局の免許取り消しを求めるような意見をツイートしたのだ。
トランプ大統領(当時)
「NBCなどの地上波局が数々のフェイクニュースを放送する中、いつになったら彼らの放送免許に異議を唱えたらいいのだ!」
それに対し、当時のFCCの委員長の答えはこうだった。
「米国憲法修正第一条の下でFCCには特定のニュース番組の内容を理由に、放送局のライセンスを取り消す権限はありません」

現在のFCCの委員は4人(定員5人)。共和党員と民主党員が同数で成り立っている。しかもこの時の委員長は共和党員だ。
独立した機関が機能している一つの例だが、日本は放送法が生まれたわずか2年後。サンフランシスコ講和条約で独立国となると放送行政を一変。政府から独立した「電波監理委員会」が廃止され、権限が政府に移管された。
何故日本が独立機関をなくしてしまったのか、憲法学者でもある鈴木秀美教授に聞いた。
慶応大学 鈴木秀美教授
「明治以来日本政府の考えには独立機関はなかった。日本の行政の仕組みに独立行政機関は馴染まないと思っていたが、GHQの統制下で仕方なく設けた。(中略)主権回復して電波監理委員会だけでなくGHQの統治下にできたいくつかの委員会は廃止になった。公正取引委員会だけは競争の番人として残りましたけれど…」
鈴木教授は日本ではアメリカのような第三者機関を作るべきかと問われると、疑問があるという。
慶応大学 鈴木秀美教授
「日本には2大政党制がないので、自民党1強の下で独立委員会を作っても委員が自民党寄りの人ばかりになってしまえば、果たして独立性が保たれるのか…」
確かに政権交代のない中で、政府の人選による独立機関が本来の機能を果たせるのかは甚だ疑問が残る。例えば原子力規制委員会も独立機関だが、10年も経つとその独立性は怪しいという声もある。














