全国で被害が相次ぐ広域連続強盗事件。これまでに30人以上の実行犯が逮捕されているが、その多くがSNSやネットの掲示板で「闇バイト」に応募した若者だった。

関東で「3人組」による強盗被害が相次いだ2023年1月、私は闇バイトの募集サイトに潜入取材を始めた。直後に狛江市の強盗殺人事件が発生するなど、事態が目まぐるしく動くなか潜入取材は2週間に及んだ。
闇バイトのリクルーターと交わした会話の録音データはあわせて5時間。明らかになったのは、巧妙な勧誘の手口だった。
なぜ多くの若者が凶悪犯罪に引き込まれたのか。その実態に迫る。

有名ネット掲示板に溢れる実行犯募集

インターネット上の誰もが見ることの出来る掲示板。その「求人・求職」カテゴリーに「闇バイト」を募集するページがあった。

「闇バイト、裏バイト、人材募集」と書かれた掲示板

ページには、「マネロン」「UD(※特殊詐欺の受け子・出し子)」「荷受け」など犯罪を連想させる求人がずらりと並んでいた。
そのなかに強盗を意味する隠語「叩き」の文字を見つけた。

「関東 叩き 即日50万以上!」の求人募集

叩き(=強盗)の募集はこの日だけで4件。全てに連絡先として秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」のIDが記されていた。私がそれぞれのIDにメッセージを送ると、テレグラムの電話で”面接”を受けるよう返信がきた。

TBS調査報道ユニット 塩田アダム記者

しかし電話に出た“担当者”は個人情報を聞いてくるだけだった。そうマニュアルにでも書いてあるのだろうか。

--案件の詳細は僕も知らないんですよ。あくまで上の人に繋げるだけなんで…

塩田)仕事内容を教えてもらってから、個人情報を伝えたい。上の人と話をさせてくれ。

“面接”は4件ともこうしたやりとりで終わった。すると翌日、新たなIDが送られてきた。4人の担当者が送ってきたのは同じIDだった。すべて同じ人物に繋がっているのか…。私はスタジオにカメラクルーを呼んで、そのIDに電話をかけた。

語られた緻密な強盗計画

--リクルーターの〇〇と申します。

リクルーターの男を直撃取材

電話に出た男は「リクルーター」だと名乗ると、すぐに具体的な「仕事」の話を始めた。

--叩きは関東の案件が多いですね。都内で集合して行動開始です。
報酬額は一回50〜100万円。
「見張る役」「物を運び出す役」って綺麗に段取りを立ててウチはやってる。民家なら5分、店舗でも6分以内には終わらせますし、基本的に失敗することはないですよ。

男の口ぶりは軽快だった。簡単なアルバイトであるかのような錯覚を受ける。
それでもあえて不安げに尋ねると、男は畳み掛けるように説得してきた。

塩田)叩きの経験はないけど、それでも大丈夫ですか?

--実は昨日も1件叩きに行ってて、6人で行ったんですけど、経験者は1人だけでしたよ。ほとんどが素人。隠キャみたいな子もいたし。捕まるリスクだって、UD(※特殊詐欺の受け子・出し子)より全然低いから。俺らも2年前くらいまではUDの募集してたけど、今はもう全く稼げない。UDで捕まるリスクが10なら、叩きは3くらいですよ。

警察庁の犯罪統計によれば、2022年に警察が認知した強盗の被害件数は1148件。それに対し検挙件数は1060件だった(検挙率92.3%)。警察が認知していない事案もあるだろうが、少なくとも強盗の実行犯はほぼ確実に捕まるというのが統計的事実だ。しかしこの時点では連続強盗の犯人はまだ捕まっていなかった。