リクルーターの本音「強盗の実行犯なんて使い捨て」
狛江の強盗殺人が発覚した後も、私は事件の真相を探るためリクルーターの男に連絡をとり質問を続けた。すると男はこんなことを言い始めた。
--塩田君は叩きの案件はやらない方がいいよ。強盗の実行犯なんて、本音を言えば使い捨てだよ。普通に捕まるしね。
「失敗することはない」「リスクはない」と語っていた男は、突如その言動を翻したのだ。さらに男の言葉は続く。
--塩田君は詳しい計画とかリスクについて何回も聞いてきたじゃん。その時に、この子はバカじゃないな、分別がつく賢い子なんだなって思ったんよ。
個人情報もまだ送ってきてないしね。実家の情報とか直ぐ送る奴なんか、ふつーに信用できないでしょ。
塩田君は受け答えもしっかりしてるから、良い関係が築けるかもなって思った。
私は取材のために、叩きの計画やリスクなどを細かく質問していた。そこが「信頼出来る」のだという。なぜこんなことを言い出したのか?狙いは?
私が思案していると、男はこう切り出した。
--だから一緒に、覚醒剤の流通を手伝ってくれない?とりあえず信頼の証に、覚せい剤を数グラム送りたいから住所教えてよ。塩田くんには損がない話でしょ?
巧妙な勧誘の手口 弱みを握られ「もう抜けられない」
男は私とのやりとりを通じ、こいつは“叩き”には引き込めないと感じたのだろう。「君は賢い」「そこがいい」と持ち上げながら、「だったらこんな仕事がある」と覚醒剤の取引を持ちかけてきた。「信頼の証に覚醒剤を送る」というのは、私の住所を把握したいからだろう。
きっかけは何でもいいから犯罪に引き込みたい。とにかく個人情報を握りたい。
そんな思惑を感じた。
連続強盗の実行犯として逮捕された男は、こう供述している。
「免許証を送って、自宅や家族を知られてしまった。次から次へと仕事の指示が来るようになったが、もう抜けられないと思った」
2週間にわたる潜入取材で、リクルーターの男は様々な“闇バイト”を提示してきた。それだけではない。「いま暇じゃない?」と突然電話をかけてきて、好きな音楽や映画の話をすることもあった。テレグラムのメッセージが途切れることはなく、通話時間は計5時間にも及んだ。振り返れば、これらはすべて男が仕掛けた罠だったのではないかと思う。常に私は見定められ、つけ入る隙を、弱みを、探られていたのだろう。
私は記者として取材として男と向き合っていた。それでも緊張や警戒心が薄れそうになる瞬間が何度もあった。あなたや、あなたの子供、あるいは生活に困窮する若者がターゲットになったら…。
一度でも心を許せば犯罪へと引きずり込まれ、抜け出せなくなる。そんな闇バイトの誘いは、私たちのすぐそばに溢れている。

















