無罪求める9万筆以上の署名 出産経験者「命がけの弔いだった」
リン被告の行為が罪に問われるのは「理不尽」。無罪判決を求める署名は約9万5000筆に上り、出産を経験した女性たちも声をあげた。弁護側は最高裁に対し出産経験者ら127人の意見書を提出した。熊本に住む坂本春香さん(31)もその一人だ。
「私が同じ立場だったらリンさんがしたような弔いはできなかったと思う」(坂本さん)

おととし娘を出産。初めての育児に追われる中、裁判を知った。自分は無事に出産できた一方、リン被告は死産し罪に問われている。「その差はどこで生まれたのか」。意見書には、妊娠中つわりで苦しんだこと、産後の病院で飲食もままならず思うように起き上がれなかったこと、ホルモンバランスの急激な変化で孤独を感じたこと等をつづった。
「自分の経験から、リンさんは文字通り命がけで“弔い”を行ったと思います。その行為が“社会の課題”としてと捉えられず“個人の責任”と結論付けられるのは、あまりに理不尽です」(坂本さん)
「孤立出産は外国人実習生だけの問題ではない」。こう語るのは、親が育てられない子どもを匿名で預かる「赤ちゃんポスト」を設置する慈恵病院(熊本市)の院長だ。
「虐待やDVの被害者など、望まない妊娠により病院を受診しないまま、孤立出産にいたる女性もいます。“弱い立場”の人たちです。リンさんのした行為が罪に問われれば、多くの孤立出産で死産したケースも犯罪とみなされかねません」(蓮田健院長)
有罪判決見直しは?実習生「働くだけの機械ではなく人間」
2月24日に開かれた最高裁の弁論。争点となったのは、リン被告が遺体を二重の段ボール箱にいれ、テープでふたをし部屋に置いた行為が「遺棄」にあたるか、だ。
【検察側の主張】
「一般の荷物であるかのように装った隠匿」
「周囲に助けを求めれば、一般人も納得する形で弔うことが容易にできた」
【弁護側の主張】
「箱を二重にしたのは『我が子が寒くないように』と棺としての丈夫さを与えたもので隠匿ではない」
「遠い異国の地で葬祭する意思を持ち続けていた」
傍聴席の最前列でその様子を見守ったリン被告。会見でこう訴えた。
「妊娠を誰にも言えずに苦しんでいる技能実習生や一人で子どもを出産せざるをえないすべての女性のためにも、無罪判決を願っています」
「私や外国人技能実習生は、働くだけの機械ではなく人間であり、女性です」(リン被告)
逮捕されたことで双子の遺体は警察署に引き取られた。リン被告は「早く埋葬したい」と引き取りを願い続けたが、検察の許可が下りたのは死産から6か月も後のことだった。産後まもない母親のもと自宅で過ごした33時間、その後、警察署の霊安室で過ごした6か月間。双子の赤ちゃんにとって真の“弔い”とは?最高裁判決は3月24日に言い渡される。
(TBSテレビ社会部 司法記者クラブ 高橋史子、長谷川美波)