妊娠や出産が知られると解雇され、母国に強制送還されるかもしれない―。そう恐れてひとり自宅で双子を死産し、遺体を箱に入れて置いておいたベトナム人の裁判が注目されている。最高裁で弁論が開かれたことで、有罪判決が見直される可能性が出てきたことに加え、無罪判決を求める署名が9万筆以上も集まっているからだ。問題の背景には、日本で後を絶たない「外国人実習生が妊娠すると不利益に扱う」人権侵害がある。「私たちは働くだけの機械ではなく、人間」。そう訴える、技能実習生たちを取材した。

妊娠5か月の実習生「前例ない」突然の退職届け

技能実習生として去年来日し、西日本の食品加工工場で働いていた30代のアインさん(仮名)。日本で働くベトナム人の夫との間に子どもを授かり、現在妊娠5か月だ。生まれてくる子どもには、ベトナム語で「さくら」を意味する言葉を名付ける予定で、その日を心待ちにしている。

「桜は日本のシンボルの花。とても綺麗で大好きな花なんです」(アインさん)

 
エコー写真を持つアインさん

「産休・育休を取って日本で出産したい」。そう考えたアインさんは、実習先や監理団体に相談。しかし、思いがけない言葉が返ってきたという。

「前例がないので、仕事を続けるのは難しい。床は滑りやすいし、重い荷物を運ぶ仕事だから、仕事を続けないことはあなたの体のためだよと言われました」(アインさん)

「今月末までしか働けないから、サインするように」と言われて出されたのは、ベトナム語と日本語で書かれた退職届だった。ベトナム語で仕事を「休む」と「辞める」は同じ言葉が使われるのだという。仕事を休むのか、辞めるのか、よく理解できないままサインをしてしまった。しかしその後、退職届だったことが分かった。

「日本に来るためにたくさんお金をかけたのに、本当に悲しいです。仕事の内容と時間を調整して、これからも働きたいです」(アインさん)

私たちの取材後、支援団体が実習生を保護する国の機関に相談した結果、受け入れ企業と監理団体に指導が入り、アインさんは出産後に復職できることが決まった。