ロシアによるウクライナ侵攻から1年。“プーチンの戦争”は世界が時間をかけて進めてきた価値観を変え、世界が向かおうとしていた流れを止め、さらに逆流させてはいないだろうか?番組では3つのポイントに着目した。
ひとつは『脱炭素』。ひとつは『平和の配当』。さらにひとつは『法』だ。

「ウクライナ戦争は石炭取引のビジネスシーンを変えた」
気候変動はイデオロギーや対立に関係なく、世界で一つになっていた数少ないテーマだった。そして世界は脱炭素社会を目指して来た。結果、最もCO2を排出する化石燃料の使用を抑えることを世界的な目標として何とか世界で手を携えてきていた。ところが、ロシアによるウクライナへの侵略によって、その流れは逆行している。
南アフリカで5つの炭鉱を経営する石炭会社のトップに話を聞いた。南アのある石炭積出港では2021年から22年のヨーロッパへの石炭輸出量は実に6倍に増えている。

南ア・石炭会社CEO ヴストラ・バヨグル氏
「石炭価格はパンデミックで最低価格の50ドル台まで下がったが、ウクライナとロシアの危機で400ドルまで上がり、収益性はかなり上がった。(中略)もしも紛争が解決し関係が正常化すると、脱炭素化や排出量ゼロなど各国の目標数値がこれまでと同様の議論に戻るだろう。しかし、ロシアと西側諸国の関係修復はかなり困難だろう。ヨーロッパが石炭を燃料として使う限り南アフリカもコロンビアもアメリカも大量の石炭を供給する。(中略)ウクライナ戦争は石炭取引のビジネスシーンを変えた」

つまり1992年に始まった地球サミット以来、世界が取り組んできた脱炭素の流れがウクライナ戦争によって止まり、石炭の時代に戻ろうとしているのか…。エネルギーを武器にロシアがしているからだけではない。そもそも戦争自体が大量のCO2を排出するのだ。ウクライナ侵攻から7か月間で増加したCO2排出量は約8300万トンと試算されていて、これはスウェーデンの年間排出量の2倍を超える。
しかし、この状況は一時的なものだろうし、各国再生可能エネルギーへの取り組みを後退させてもいない。プーチンの戦争が逆流させたものの中では小さなものかもしれない。それよりも大事なものが逆流している。