’21年、夏の甲子園にも初出場した愛媛の強豪、新田高校野球部。
その野球部員2人が、日頃鍛えた心と体を奮い立たせ立ち往生した車を次々に助けた。
舞台は愛媛県松山市、日本最古の温泉と言われる道後温泉本館のほど近く。
冬でも比較的温暖な松山市でも、今回の最強寒波は異例の寒さ。
24日。
午前中には気象台から暴風雪警報が発表され、市内の各高校では臨時下校、午後4時には気温も氷点下に突入し雪も吹き付けていた。
そんな中、自主トレを兼ねたウオーキングから帰宅途中だった新田野球部の田中佑来さん(2年)早野智仁さん(2年)の2人は、雪道で立ち往生している乗用車を目にした。
「あれ、手伝った方がいいんじゃね?」
田中さんが言うやいなや2人は迷わず車の後ろへまわり、運転手のアクセルに合わせ車を押した。
・・・が、動かない。
凍った路面にタイヤはグリップせず空回りを繰り返すのみ。
するとそんな様子に加勢してくれたのが道後温泉の観光客だ。
1人増え、2人増え、総勢6人ほどになった急ごしらえの「チーム道後」。
6人のスクラムで約10分程かけ、なんとか車を脱出させることに成功した。

「ありがとう」
ドライバーはその一言だけを残して走り去ったというが、この時、早野さんの心は「みんなで押せば、車でも動かせるんだ」という新鮮な感動に満ち溢れていたという。
ところが・・・
道後界隈は基本的に坂の街。
振り向いた2人の目に飛び込んできたのは、次々に立ち往生していく車、また車・・・。

それでも、野球部員2人と観光客らの強力スクラム「チーム道後」は、その後も現場を離れることなく、雪道に自らの足をとられながらも、1台押してはまた1台…。
なんと「8台」の車をピンチから救い出すことに成功した。

気が付けば、時計は午後6時半。
この時市内の気温は-2.1℃。
それでも、あっと言う間の1時間半だったと2人は振り返る。
「後ろが渋滞していて、どんどん車が来る状態だったので。特ににトラックが大変でした」
(トラックも押したの?)
「はい!」
田中佑来さんは微笑む。
そして早野智仁さんは、図らずして訪れた初めての経験に「人助けというのは、助けた側の自分も動かせたら嬉しくなるので、これからも続けていかないといけないと思いました」と真剣な表情で語り、2人はまた仲間の元へ帰って行った。

目下、冬トレ真っ只中の新田高校野球部。凍てついたグラウンドに響く元気な声はきょうも地域を少し温かくしている。