SNS全盛時代にあって、新聞やテレビなど伝統的な報道機関の持つ影響力や存在感は相対的に弱くなったと指摘される。しかし、健全な民主主義社会には専門的に報道に携わる組織あるいは個人が不可欠であることは論をまたない。ただ、そうした人たちの取材報道活動=ジャーナリズムを時代にあわせてアップデートすることは重要だ。そのために必要な議論の素材を提供する目的で始まった、専修大学ジャーナリズム学科・山田健太教授による連載「明日のジャーナリズムへ」の第6回は、フェイク・ニュースとファクトチェックに関する論考。
「戦後最悪の沖縄差別」とまで称された、デマ情報に揺れた沖縄県知事選が終わった。結果は既報の通りで、これをもってネット言説がどこまで選挙結果に影響を与えたのか、あるいは与えなかったのかを語るには、今後の調査を待つしかないものの、選挙期間前も含めてのネット空間における情報が一定の世論形成や投票行動に影響を与えたことは想像に難くない。
すでに2024年以降、こうした主としてSNS上の選挙関連情報が投票行動に大きな影響を与えることが実証的に証明され、それは裏返せば放送や新聞の社会的役割や報道の仕方の喫緊の見直しを迫るものであったことは間違いないからだ。
ファクトチェックの歴史
日本の国内メディアにおいて、最初に意識的な「ファクトチェック」が行われたのは、朝日新聞による安倍晋三総理大臣(当時)の国会答弁であるとされる。明確な形で紙面においてファクトチェックを謳った最初の記事は、2016年10月24日付朝刊だ。
そこでは「首相の答弁 正確? 『ファクトチェック』してみました 臨時国会中盤」との見出しで、「大統領選などで米メディアが積極的に取り組む『ファクトチェック(事実確認)』の手法を使って、安倍晋三首相の答弁を調べた。」と、まさに<ファクトチェック>というワードを使用して、安保関連法制についての答弁などを、「誇張」「結果的に誤り」「一部誤り」「正しい」などと判定している。
その後も朝日新聞は、主として政府答弁や主要演説のファクトチェックを続け、その流れはほかの新聞にも広がっていった(南彰・望月衣塑子『安倍政治 100のファクトチェック』集英社新書、2018年12月)。
一方で安倍総理自身もファクトチェックという言葉を使い、「ぜひ国民の皆さんに、新聞をよくファクトチェックしていただきたい」(2017年10月7日の党首討論会での発言)などと反論するまで「一般化」していった。ちなみに朝日新聞は、その後も継続的に紙面上で検証作業を続けてきている。
そうしたなか、記事件数が急激に上昇するのが2025年だ。下のグラフは、朝日新聞のデータベースで「ファクトチェック」というキーワードで本紙朝夕刊の記事・見出しを検索した際のヒット件数、その10年分の推移を示している(なお、2015年まではほぼゼロであることから起点を2016年にしている)。

言わずもがなであるが、前年2024年の参院選、東京都知事選、そして兵庫県知事選を通じ、SNS旋風が吹き荒れたなかで、改めてファクトチェックが注目されていった。政府においても「ネット空間の健全化」のために偽・誤情報対策の検討が始まり、選択肢の一つとしてファクトチェックが示された。
前述の朝日新聞記事の記述にもある通り、日本でファクトチェックが本格化する前から、アメリカおよびヨーロッパ各国では、同種の試みが積極的になされ、日本にも紹介がされてきていた。
米大統領選挙のテレビ討論会時における正誤チェックなど、主には政治家の発言を対象として、基幹メディアがその担い手として実施されている。また同時に、ファクトチェック機関が設立され、そのルール作りも進んでいった。
日本における取り組みの一つが、2017年設立の「ファクトチェック・イニシアティブ(FactCheck Initiative Japan:FIJ)」だ。FIJは、2017年にファクトチェック・ガイドライン(暫定版)を作成し、翌18年に正式版を公開。さらに2019年にはレーティング基準を策定している(以下の表)。

また、海外も含む活用例(主要な海外ファクトチェック・サイトも掲載)をまとめたサイトも運営しており参考になる。自らがチェックをするのではなく、同機構の基準を活用して各メディアが実施するという枠組みを作ってきているもので、放送局の参加も増えてきた。
関連して、国際ファクトチェックネットワーク (International Fact-Checking Network、IFCN)は、ファクトチェック活動の原則についての綱領を定める。2016年9月に制定されたファクトチェック綱領は以下の5項目で、国際標準として認知されてきている(2020年4月に改訂版発表)。2020年改定版ではより詳細に原則を示したガイドラインも公表されている。なお、同団体は米国のPoynter Instituteのもとで2015年に設立された。
【IFCNのファクトチェック綱領】
(1) 非党派性と公平さ(A Commitment To Nonpartisanship And Fairness)
(2) 情報源の透明性(A Commitment To Transparency Of Sources)
(3) 財源・組織の透明性(A Commitment To Transparency Of Funding & Organization)
(4) 方法論の透明性(A Commitment To Transparency Of Methodology)
(5) 公明で誠実な訂正(A Commitment To Open And Honest Corrections)
一方で、日本ファクトチェックセンター(JFC)は実際にインターネット上の誤情報や偽情報を検証し、真偽を公表する非営利の専門組織である。きっかけは2020年2月に公表された総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」の報告書が言及した「民間による取り組みの推進」であり、2022年にセーファーインターネット協会のもとで発足し、JFCのファクトチェック・ガイドラインと判定基準を定めている。

日々のファクトチェックに関しては、編集部が独自に対象を選び検証を実施、その体制は経験を積んだプロのジャーナリストやエディターらと学生らインターンで構成されると、同機構のウェブサイトで説明されている。














