「財源の多角化」こそ、外部評価の対象である
前節で紹介した、いま注目されている<(1)多様な鑑賞機会の提供と経営の持続可能性の確保の両立>における「持続可能性」の確保について、ここでは「展示事業に係る費用に対する展示事業に係る自己収入」に限らず、独立行政法人における自己収入の1つである寄附金収入の推移をみてみたい(各年度の「独立行政法人国立美術館 決算報告書」より)。
独法化から10年経過した2011(令和23)年度では、国立美術館の寄附金収入が3千万円弱であったが、2014(平成26)年度には寄附額が6億円台となり、令和(2019年~)になってからはおおむね7億円台で推移している。
筆者がネット上で知り得る範囲は限られているため、国立博物館などに勤務していた数名の方にこの間の体制の変化などを伺ったところ、ファンドレイザー(非営利団体において活動に必要な寄附金、会費、助成金などの資金を集める職業)が資金調達する体制はできつつあるという。
一方で、その一件あたりの調達額が小さく、全体としてなかなか大きな自己収入増には至っていない。個人や法人のニーズを的確に把握し、より大きな資金調達を可能にする枠組みを創出するマーケッターの存在が欠かせないのではないかという。
ただし、アートに関する情報を発信しているTokyo Art Beat(2026.3.30)の記事で、青山学院大学総合文化政策学部教授の片山泰輔氏が述べているように「交付金抑制による要員不足もあり、マーケティングやファンドレイジング(上記ファインドレイザーの活動)の戦略的な取り組みはあまり行われず、交付金に頼る財政構造が継続されてきた面がある」のであれば、単に資金調達に係る要員を増やせばよいという単純な構造ではないことがわかる。
筆者は、財源の多角化の議論からもうこれ以上逃げない方がよいと考える。この議論は国立美術館などの持続可能性を手に入れる第一歩であり、将来的に資料収集・保存、調査研究といったミュージアムの本質的な価値を生み出す機能を維持していくことに関わるからだ。
この財源多角化の議論の中で「展示事業に係る費用に対する展示事業に係る自己収入額の割合を(中略)本中期目標期間の最終年度に65%以上とする」ことを検討すべきと考える。
その理由は、65%以上のラインに到達することだけを考えれば、例えばマスコミとの共催展を連続し、「展示事業に係る費用」つまり分母を小さくすることに注力すれば、実現する可能性が低くないからである。しかしその結果、美術館の収集と調査・研究の成果を存分に発揮する自主企画展が大幅に減少してしまっては、将来の持続可能性の道筋がねじれてしまうように思う。
今回の中期目標では、<IV−2. 組織体制の見直し>や<V−1. 財源の多角化による自己収入の拡大>が挙がっているが、検討すべき事項を横並びに記述しているに過ぎず、戦略性は読み取れない。
そもそも評価の目的は、「説明責任」と「事業改善」の2つである。これらの独立行政法人の評価では、さまざまな手続きを踏んで内部で作成される自己評価とそれを受けての外部評価から構成されている。
これまでのように外部評価では自己評価から持ち上がってきた数値を、国民に対する説明責任の一環で吟味するだけではなく、財源の多角化が現状ではなぜうまく進んでいないのか、進めるためにはどこを変えていくことが必要なのかなど、現場の声を独自にヒアリングしながら、事業改善に向けてもっと創造的な議論が展開することを期待したい。
<執筆者略歴>
佐々木 亨(ささき・とおる)
北海道大学文学部卒。
旅行代理店勤務後、北大文学研究科修士課程入学。1987年民間シンクタンク、1989年北海道教育委員会(学芸員)、1997年東北大学東北アジア研究センター勤務。2000年北大文学研究科。2025年北海道大学名誉教授。同年4月より、文化施設や文化事業に関する評価の伴走支援を行う合同会社「エ・バリュー」共同代表。2026年4月より小樽市総合博物館館長
【調査情報デジタル】
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