夏の甲子園は、なぜ動けないのか
そして、動かせないものの代表例が、夏の甲子園です。
今年の高校野球の奈良大会では、春の選抜で準優勝した智辯学園が、エースら主力が足や体をつるアクシデントが相次いで敗退しました。プロ野球は今年、2軍の試合で熱中症とみられる体調不良者が相次ぎ、試合が成立しなかったことを受けて、暑さを理由にした2軍戦の開始時刻の変更や中止をできるようにしています。高校サッカーは、真夏の全国大会であるインターハイの開催地を、男子は福島県、女子は北海道に固定しています。ところが夏の甲子園は、今年も8月の兵庫県西宮市で開催です。
なぜ動かせないのか。主催団体である日本高等学校野球連盟の事務局長が、理由をはっきり語っています。他の時期は、甲子園球場をプロ野球が、地方の球場も大学野球などがすでに押さえていて、確保できないのだそうです。プロとアマチュアの合同会議体「日本野球協議会」はありますが、球場の日程を一元的に決められる組織ではありません。だから譲り合いも難しい。阪神甲子園球場のほうは、観客席の屋根を広げる工事に約150億円を投じています。移転や時期変更ではなく、いまの球場で観戦環境を整えるための投資です。
収入の8割以上が入場料
もうひとつ、お金の事情があります。去年の夏の甲子園大会の収支は、公表されています。入場料収入が10億1,900万円、支出が7億3,200万円で、差し引き2億8,700万円が残りました。大会の収支だけを見れば、健全です。ただ、日本高等学校野球連盟の2025年度の決算を見ると、経常収益約17億7,600万円のうち、入場料が87.8%を占めています。収入の柱が、ほぼ1本しかないのです。
テレビの放映権料という形ではお金を取っておらず、ネット配信の協力金が年6,300万円ほどある程度。スポンサーも募集していません。背景には、学生野球を教育の一環と位置づけて、商業主義と距離を取ってきた「日本学生野球憲章」の考え方があります。比較のために挙げると、アメリカの大学バスケットボールの全国大会は、観客数は夏の甲子園とほぼ同じ約70万人ですが、メディアやマーケティングの権利収入だけで年間およそ9億ドル、日本円にして1,300億円を超えます。制度も競技の範囲も違うので単純な比較はできませんが、桁がまるで違います。
これは「甲子園も商業化するべきだ」という話ではありません。商業主義と一線を引いてきたからこそ、甲子園は特別な場所であり続けてきました。ただ、ドーム球場を借りるにも、時期を移すにも、大きなお金と、決断する主体が必要です。お金儲けを抑えてきた仕組みだからこそ、変化のためのお金も、変化を決められる人も、生まれにくいのかもしれません。














