「裁判所としては起訴された『過失運転致死』という罪名のなかで検討するほかない。しかし…」
広島地裁の 藤丸貴久 裁判官は、「眠気という生理現象の影響もあったとうかがわれるものの、前方左右を注視し、信号表示に従って進行するという最も基本的な注意義務を怠った。被害者はキックボードに乗っていたとはいえ、歩行者用の青色信号に従って横断歩道を横断していたに過ぎず、何らの落ち度もない。わずか7歳の尊い命が失われた結果が重大であることはいうまでもない。愛する我が子を永遠に奪われた両親の悲嘆は想像するに余りある」と指摘しました。
一方で、「危険または無謀な運転により生じた事故ではなく、任意保険により相応の賠償も見込まれること等と考慮すると、同種事案の中で実刑がやむを得ないほど悪質な部類に属する事案とはいえない」として、禁錮3年、執行猶予5年を言い渡しました。
そして、男に、こう語りました。
裁判官
「ほんのわずかな油断だったかもしれませんが、重大な結果を引き起こしたものです。被害者の両親も、裁判で提出された書面で『殺人ではないか』と仰っていましたが、裁判所としては起訴された内容、『過失運転致死』という罪名のなかで検討するほかありません。
しかし、『殺人』だったとしても、『過失運転致死』でも、お二人が大切に育ててこられた男の子が亡くなったという結果は同じだと思っています。そこをしっかりと理解してほしいと思っています。
今回は、執行猶予がついていて、実際には刑務所に入ることはないのですが、あなたが反省していることを示すためには、誰から見ても反省していると受け取れる行動をとっていくしかありません。
これから贖罪が始まりますが、被害者と同じような人が1人でも減るように、社会の役に立つ行動を心がけてください。
それでは、閉廷します」
男は小さく礼をして、拘置所の職員や弁護人と話し、静かに法廷をあとにしました。
事故の現場は、近くの小学校の通学路でした…。