「市場の催促にゼロ回答」

 市場に催促された形での政策変更はしない。予想通り、日銀の黒田総裁は、18日の金融政策決定会合で、長期金利の上限の、更なる引き上げには応じませんでした。記者会見でも「変動幅の拡大が必要とは考えていない」とゼロ回答。そればかりか市場金利を引き下げるための、資金供給策の拡充まで打ち出しました。市場機能の回復どころか、むしろ市場管理を強めることで、攻防戦を突破しようとしています。

対抗策は、銀行への事実上の補助金

長期金利の上昇を見込む市場に対して、日銀は10年国債を過去最高の水準で購入し続けてきました。このため、市場にはもはや買えるものがなくなってしまったほどです。その一方で、日銀が直接のターゲットとしていない、10年以外の金利は上昇を続けており、「10年金利だけが異様に低い」という「歪み」は、依然として是正されていません。
そこで今回、日銀は、3年や5年などより短い期間について、金融機関に対して、国債を担保にした低利の貸し出しを大幅に拡充することにしたのです。例えば、銀行が利回り0.2%の5年国債を市場で買います。銀行は、この国債を日銀に差し出して、0.1%で5年の資金を借ります。満期となる5年後に、この国債の償還を受け、日銀に資金を返済すれば、金利の差額分が銀行に入ることになります。日銀は自分の資金で国債を購入せずに、銀行に国債の購入を促すことで、市場金利を低めに誘導することができるわけです。
なんだか素人には難しい仕組みに見えますが、要するに、金融機関に補助金を出して、自分の代わりに国債を買ってもらおうという話です。市場機能の回復どころか、逆に市場機能を『抑え込む』ことに、一段と踏み込んだ格好です。

日銀の政策変更の遅れが、今の不安定を招いた

今回の異次元緩和維持という決定は、大事な春闘を前に金利の上昇や株安を招くわけにはいかないという、日銀の現実的な判断によるものでしょう。確かに、円安が150円といった一時のレベルから相当是正されたことを考えると、今、急いで利上げを行う必要はありません。
しかし、長い目で見ると、矛盾のマグマをより溜め込んでいるように思えます。そもそも、このところの市場金利の急激な上昇は、日銀の政策変更が遅れた上に、12月の唐突な政策変更が疑念を招いたためにもたらされたものです。言い換えれば、世界中の金利が上昇しているのに、日銀の行動が遅れたことが、今のボラティリティー、いわば変動をより大きくしたと言えるのです。だとすれば、異次元緩和からの出口にあたっては、今回の『延命措置』によって、ボラティリティーを一層高めるリスクがあると考えるべきでしょう。

問題はすべて「黒田後」に先送り

強力なツールを持つ中央銀行は、市場の圧力を一定期間かわすことはできるでしょう。そして、今春、任期を終える黒田氏は、「異次元緩和を貫いた総裁」として歴史に名を遺すことになるのでしょう。でも、その先の後始末は、とても大変です。
記者会見でTBSの記者が、「次の総裁にスムーズにバトンタッチするといったお考えは?」と問うたのに対し、黒田総裁は苦笑いしながら「そのような僭越な考えはありません」と答えただけでした。