「個」で「社」で「界」で、それぞれ取り組む

そして何より、日常的にやっておかなければならないことが数多くある。

まずは「認識より知識」である。犯罪被害者の心理や支援制度についての知識をしっかり獲得することが求められる。そのためには、犯罪被害者のメンタルヘルスについての専門家の教えを乞うことが一番だ(注11)。

事件・事故取材について、警察取材のノウハウと経験の蓄積は放送・新聞ともに豊富だ。共同通信はじめ、各社においてもハンドブックが整備され、こと細かく取材の仕方や記事の書き方まで指南されている。しかしこれまで圧倒的に、被害者取材についての専門知識についての教育・研修が欠如していた。

次には認識を深めるために、事件・事故の当事者の声を聴くことが大切だ。その多くは耳が痛いことばかりであろうが、耳や目を背けてはなるまい。

また、被害者弁護士やサポートステーション(支援センター)スタッフの話も有益に違いない。こうした支援センターには実際、各地で報道機関OBが数多く在籍している。最近では数多くの被害者の側の声を聴く機会が設けられており、こうした会に参加することはおそらくハードルが低い方法だろう。これらの機会が、被害者の気持ちをきちんと理解し、実際に相対したときに共感や傾聴ができることにつながるはずである。

もちろん、報道機関の内外にも詳しい人はいる。海外ではジャーナリスト向けの被害者取材の講座や講義が開設もされており、これらへの参加者も既に存在する。また、長く被害者取材の在り方に取り組んできた者もいる(注12)。こうした研究や経験の蓄積をみんなで共有することが大切だ。

取り組みには、個人でできることのほか、社で取り組むべきこと、あるいは報道界全体でやる必要があるものと、さまざまなレイヤーがあろう。これらを一つずつクリアすることによって、「遅れている」日本の被害者取材・報道がアップデートされ、被害者当事者にとっても意味がある、あるいは積極的にジャーナリストの前に立とうと思う環境が生まれることになるはずだ。

(注11)例えば武蔵野大学心理臨床センター・ウェブサイト「犯罪被害者のメンタルヘルス情報ページ」や「トラウマ支援コンテンツ」。同センター構成員の小西聖子、中島聡美らが積極的に発言をしてきている。

(注12)代表的なものに、継続的な河原理子の仕事がある(高橋シズヱ、河原理子著『<犯罪被害者>が報道を変える』(岩波書店、2005年)、ジョー・ヒーリー著、河原理子編訳『トラウマを聴く前に知っておきたい10のこと~当事者の声と取材者の実践』(岩波書店、2026年))。

<執筆者略歴>
山田 健太(やまだ・けんた)
専修大学ジャーナリズム学科/大学院ジャーナリズム学専攻教授。
専門は言論法、ジャーナリズム学。
自由人権協会代表理事、日本ペンクラブ副会長。放送批評懇談会、情報公開クリアリングハウスなどの各理事を務める。BPO人権委員会など歴任。
主な著書に、『法とジャーナリズム 第4版』(勁草書房)、『ジャーナリズムの倫理』(いずれも勁草書房)、『沖縄報道~日本のジャーナリズムの現在』(ちくま新書)、『転がる石のように~揺らぐジャーナリズムと軋む表現の自由』(田畑書店)ほか多数。
専修大学で一般公開の「表現の自由研究会」を開催中。

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1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。