なぜ「一貫囲い込み」はうまくいかないのか

この4タイプの地図を頭に入れると、教育業界で長年の夢だった戦略がなぜうまくいかないのかが見えてきます。幼児教育から大学受験まで、同じグループのなかで1つの家庭を長くお客さんとして持ち続ける「一貫囲い込み」です。ベネッセが2007年に鉄緑会を傘下に収めたのも、この発想でした。しかし2026年、ベネッセは鉄緑会の運営会社を手放すことになりました。

なぜかというと、親は節目ごとに、その局面でいちばん強い専門店を選び直すからです。中学受験はSAPIX、東大受験は鉄緑会、総合型選抜なら専門塾。進学塾のブランドの価値は教材や講師だけでは決まらず、「周囲にどんな生徒がいるか」「合格実績がどの層で出ているか」で決まります。だから、グループ内で顧客を送り合おうとしても親はついてこないのです。興味深いことに、SAPIXと代々木ゼミナールを持つグループでも、SAPIXを卒業した生徒が大学受験ではグループ外の鉄緑会を選んでしまう、という同じジレンマが指摘されています。

塾の価値は「教える」から「設計する」へ

教育ニーズが4つのタイプに分かれたことは、塾・予備校という商売の中身そのものを変えつつあります。かつての塾の価値はシンプルに「教えること」でした。ところがいまは、無料の解説動画やAI教材が広がって「授業」そのものの価値は下がり、かわりに進路のコーチング、出願の戦略、書類の添削、日々の学習管理が求められています。塾の価値は「教える」ことから「学習を設計し、続けさせ、進路に接続する」ことへ移っているのです。

この変化についていけない塾は淘汰されはじめています。東京商工リサーチによると、2025年の学習塾の倒産は55件で3年連続の過去最多。その大半が、「地域にある普通の塾」でした。逆にいえば、4つのタイプのうち誰の、どんな不安に答えるのかがはっきりしている塾は、少子化のなかでも伸びる余地があるということです。

だとすると、親が問うべきなのは「どのルートが勝ちか」ではないのだと思います。競争のなかで伸びる子もいれば、探究で火がつく子も、安心できる場所でこそ成長していく子もいる。「この子はどんな環境でよく伸びるのか」。それが、正解のルートが消えた時代の、新しい地図の読み方なのではないでしょうか。

<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年7月12日配信『AI時代「子どもの教育どうする?」学校・塾・予備校の生存競争』から抜粋してまとめたものです。