報道機関に求められる役割
報道機関には2つの役割がある。第1に、正確な情報を速く届け、災害時のあいまいさを下げること。第2に、広がっているデマを具体的に打ち消すことである。「デマに注意」だけでは弱い。あるデマについて、何が誤りで、根拠は何か、正しい情報はどこで確認できるのかを示す必要がある。
各社がばらばらに対応するだけでは限界がある。報道機関、行政、ファクトチェック団体、プラットフォーム事業者が連携し、デマの受け皿となる一元的な確認・発信体制をつくるべきである。AIによる検出も有効だが、技術的にすべてのデマがAIによって検出できるわけではなく、最後に必要なのは責任ある主体による確認と説明である。
報道機関も、デマを「報じる」ことでかえってデマを広げる危険を自覚しなければならない。熊本地震の「ライオンが逃げた」では、デマの存在をニュースで知った人も少なくなかった。否定情報は、刺激的にではなく、検証可能な形で必要十分に伝える必要がある。
コロナ禍のトイレットペーパーをめぐるデマでは、「スーパーの空っぽになった棚」の映像が買い占めを促した一方、「トイレットペーパー工場にある大量の在庫」の映像と「トイレットペーパーの国内シェアはほぼ100%で、国内の物流が戻れば購入可能である」という実態の報道は沈静化につながったと考えられる。
流言は智者に止まる
中国戦国時代の思想家・荀子の書物に「流言は智者に止(とど)まる」という言葉がある。流れてきた噂は、考察できる人のところで止まる、という意味である。災害時のSNSデマ対策は、最新技術だけの問題ではない。最後は、一人ひとりが「ここで止める」と判断できるかにかかっている。
もちろん、個人の努力だけに押しつけてはならない。プラットフォーム設計、行政の情報発信、メディアの検証報道、防災教育を組み合わせる必要がある。ただし土台は単純である。「災害時にはデマが必ず発生する。根拠が分からないものの拡散には加担しない」。
災害時に必要なのは、情報を速く回すことだけではない。間違った情報を、そこで止める力も必要である。それもまた、命を守る防災リテラシーなのである。
参考文献・資料
・朝日新聞(2025)津波警報の発表中にグーグル検索、AIが「すべて解除」と誤情報(2025年12月10日)(2025年12月12日確認)
・Allport, G. W. & Postman, L.(著)・南博(訳)(1952)『デマの心理学』、岩波現代叢書
・荻上チキ(2011)『検証 東日本大震災の流言・デマ』, 光文社新書
・木村玲欧(2015)『災害・防災の心理学』, 北樹出版
・Kimura, R. and Iwao, A (2020) “Study on Features of Rumors Generated at the Time of Disaster: Characterization of Actual Rumors”, 17th World Conference on Earthquake Engineering Conference Proceedings, No.7f-0001, 12pp.
・木村玲欧(2024)「災害時のデマを減らすためには」, 消防防災の科学, No.156, pp.2-5.
・木村玲欧・田村圭子(編著)(2026)『災害を乗り越える防災基礎力入門』, 放送大学教育振興会
・中森広道(2020)「災害流言の展開とその特性」, 消防防災の科学, No.139, pp.34-39.
・廣井脩(2001)『流言とデマの社会学』, 文春新書
<執筆者略歴>
木村 玲欧(きむら・れお)
兵庫県立大学環境人間学部・大学院環境人間学研究科教授
1975年東京都生まれ。1998年早稲田大学人間科学部人間基礎科学科卒業。2004年京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 博士後期課程修了。博士(情報学)(京都大学)。
専門は防災心理学、防災教育学、社会調査法。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など。
具体的には、災害時の人間の心理・行動や社会の変化について実態解明をしたり、過去の災害教訓をもとにした防災リテラシー(防災力・防災基礎力・生きる力)向上のための防災教育・防災訓練のあり方について研究している。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)など多数。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














