災害時、人々を救うためにSNSのはたす役割は大きい。しかし一方でSNSはデマを拡散させ、人々の命をあやうくし、復興を妨げるツールにもなり、その実例も多い。私たちがデマを拡散させる「当事者」にならないために知っておくべきことは何か。そして報道機関がなすべき役割は何か。兵庫県立大学環境人間学部・大学院環境人間学研究科の木村玲欧教授による論考。

はじめに

SNSは命を救う道具になる一方で、救えたはずの命を遠ざける情報も運ぶ。災害時の偽・誤情報を「一部の悪質な投稿者の問題」と捉えるのは誤りだ。問われているのは、災害時の情報環境を社会全体でどう設計するかである。

「SNSを見れば安心できる」という誤解

災害直後、多くの人はスマートフォンを手に取る。震源はどこか、津波は来るのか、家族は無事か、避難所は開いているのか――。

SNSには、テレビ・ラジオや行政発表より早く、現場の断片的な情報が流れる。被害状況の早期把握、孤立地域からの発信、避難の呼びかけなど、SNSが救助・救援に役立つ場面は確かにある。

一方で、災害時のSNSには、根拠不明の情報、誤情報、悪意ある偽情報も流れ込む。近年は、生成AI、動画生成技術、投稿の収益化、アルゴリズムによる表示が重なり、災害時のデマは質的にも量的にも新しい段階に入っている。

2024年の能登半島地震では、X(旧ツイッター)などで、虚偽の救助要請、人工地震説、外国系窃盗団が集結しているという根拠のない投稿、避難生活に関する誤情報が拡散した。

特に虚偽の救助要請は深刻である。警察・消防・自治体が本来不要な確認に追われれば、本当に助けを必要とする人への対応が遅れる。デマは、人命救助、支援活動、治安、生活再建を直接妨げる。