孫正義氏のソフトバンクと同じ構造

この構造、どこかで見たことがあると思った方もいるかもしれません。かつての、孫正義さん率いるソフトバンクです。

ソフトバンクも、もともとは携帯電話の通信事業を持っていました。毎月みんなが払ってくれる、安定した通信料です。その読める収入があったからこそ、投資家たちから「もっと大きな夢に使うお金」を、次々と引っ張ってくることができました。安定した収入を土台に、その上に大きな投資を積み上げていく。スペースXがやろうとしていることは、まさにこれと同じです。

似た例は、ほかにもあります。ここ10年ほど、世界中の投資家から巨額のお金を集めてきた「SaaS(サース)」と呼ばれるビジネスです。ソフトウェアを買い切りではなく、毎月の月額課金(サブスク)で使ってもらうやり方で、毎月決まった額が入ってくるため、将来の売上が正確に読めます。「未来が計算できる」というだけで、これほどの価値がつく。資本主義の世界では、それくらい「読める未来」の値打ちが高いのです。

AIと宇宙データセンターという「夢」を上に乗せる

では、スターリンクという土台の上に、スペースXは何を乗せようとしているのでしょうか。

一つは、AIです。実はいま、私たちが使っているX(旧ツイッター)も、マスク氏のAI企業「xAI」を通じて、スペースXの一部になっています。さらにスペースXは、AIで有名なアンソロピックやグーグルに対し、AIを動かすための計算資源を提供してもいます。その額は、アンソロピックとは毎月約2000億円、グーグルとは毎月約1500億円という、桁外れの規模です。

加えて、「宇宙データセンター」という構想まであります。AIのサーバーを積んだ衛星を打ち上げ、宇宙空間で計算そのものをやってしまおうという発想です。地上のデータセンターは膨大な電気と水を使い、各地で住民の反発も起きていますが、宇宙なら太陽の光が24時間タダで降りそそぎます。マスク氏は「今後2~3年で、AIのデータセンターは宇宙に置くのがいちばん安くなる」とまで語っています。

投資家は、こうした「これから」に期待を寄せています。ゴールドマン・サックスは、スペースXのAI事業の売上が、2025年の約5000億円から、2030年にはその100倍の50兆円規模にまで伸びる、という強気の予想すら出しています。赤字のはずの事業に、これだけの値段がつく。やはり投資家は、いまではなく「未来のスペースX」を買っているのです。

資本主義は「計算できる未来」に値段をつける

こうした超大型の上場は、市場全体からお金を吸い上げる力を持っています。

興味深いことに、いまビットコインなどの暗号資産の値段が大きく下がっています。ビットコインは6月のはじめに、約1年8か月ぶりに6万ドルを割り込みました。その理由の一つが、「スペースXのIPOにお金を回すために、投資家が手持ちのビットコインを売っているからだ」とも言われているのです。みんなが一つの株を買うために、ほかの資産を売る。お金が一か所にどっと流れ込むことで、相場にゆがみが生まれる。まさに、資本主義のダイナミズムがここにあります。

結局のところ、スペースXの283兆円という話は、つきつめれば「未来に、どう値段をつけるか」という一点に行き着きます。安定して読める収入という土台があるからこそ、人はその先の壮大な夢に、惜しみなくお金を賭けられます。赤字かどうかでも、いまの契約数でもなく、「この先の未来が、どれだけ計算できるか」。そこにこそ、いちばん高い値段がつくのです。

私たちがいま見ているのは、一つの会社の上場劇ではありません。資本主義が何にお金を払うのか、その本質が映し出された出来事なのだと思います。

<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuber兼リサーチャー・編集者のコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年6月8日配信『スペースXと宇宙ビジネス:イーロン・マスクが火星を目指す理由』から抜粋してまとめたものです。