腕時計から編み物まで、「手触り」と「お揃い感」を求める消費行動

野村:音楽以外の分野でもアナログ化は進んでいるのでしょうか。

comugi:腕時計の世界でも面白い変化が起きています。今、機械式腕時計がブームですが、利用者からは「自分が手をかけないと止まってしまう相棒感がある」という声が聞かれます。また、デジタル時計であっても、3,000円程度の安価なカシオ製品、通称「チープカシオ(チプカシ)」がレトロブームの火付け役となっています。

野村:実は私も、日常生活でチプカシを使っているんです。Apple Watchほど気を使わずに済みますし、水に濡れても平気なので、非常に使い勝手が良いんですよね。

comugi:Apple Watchのようなウェアラブルデバイスだと、他人と同じものを付けていても「お揃い」という感覚にはなりにくいですが、アナログな時計やチプカシだと「あ、お揃いだね」という会話が生まれます。この「お揃い感」は今の若者にとって大きな価値になっていて、あえて同じものを身に付けることで得られる一体感を楽しんでいるのです。

野村:他にはどのような事例がありますか。

comugi:さらに今「編み物」が爆発的に流行っています。新宿にある手芸の聖地「オカダヤ本店」では、毛糸の売上が2023年比で6倍、前年比でも2倍という「毛糸バブル」状態です。

野村:新宿という若者の街で毛糸がそれほど売れているとは。

comugi:自分の手で一目一目編んでいくという行為が、デジタルにはない「没入感」を与えてくれるのでしょう。日本の毛糸は品質が高いため、これもインバウンドの裏トレンドになっていて、海外からも多くの人が買いに来ています。他にも「ぬい活(ぬいぐるみを主役にした活動)」や、市場規模がここ数年で数倍に成長しているアナログの「ボードゲーム」など、枚挙にいとまがありません。

世界に広がるデジタルからの脱却。アメリカでは「固定電話」が再注目?

野村:このアナログ回帰は、日本特有の現象なのでしょうか。

comugi:いえ、グローバルな動きです。例えば、アメリカでも「身体感覚を伴う遊び」として麻雀が密かなブームになっています。

画面の中ではなく、リアルに牌を触り、対面で人と楽しむ感覚が新鮮に映っているようです。さらに興味深いのが、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた「子供に固定電話を与える親が増えている」というニュースです。

野村:令和の時代に、あの物理的な固定電話を子供に持たせるのですか。

comugi:はい。シアトルのスタートアップ「Tink」などが提供しているサービスですが、Wi-Fiに繋ぐ物理デバイスで、通話だけができるというものです。スマホを持たせるとSNSの依存やいじめのリスクが怖いけれど、友達とお喋りはさせたいという親の需要に応えています。SNSに繋がらない「物理的な安心感」を求めているのです。

野村:SNSの年齢制限などが世界中で議論されていますが、物理的に遮断してしまうというのは、ある意味で非常に合理的な解決策かもしれませんね。