マスメディアに何ができるか?~政治があおる排外主義との対峙~

前述のように、厳密で綿密な取材に基づいて把握した正しい事実よりも、恐怖や怒りなどの感情に訴えるバイアスを利用できるデマやフェイクは、どうしても人びとの興味をひき、広まりやすい。データからも、そのようなデマを流しやすいSNSや動画共有サービスをよく使う人ほど、排外的意見を抱きやすくなっている。

ただ歴史的にみて、排外主義的な政策を推し進めて長期的に成功した国家は存在しない(すでにトランプ大統領の二期目の支離滅裂な政策が、着実にアメリカの国力を低下させているのは、現代的一例であろう)。

だからこそマスメディアは、その存立の前提である社会を守るためにも、政治があおる排外主義に対する防波堤として短期的な経済的利益に惑わされない対応を続ける必要があろう。

マスメディアも各種の認知バイアス、例えば「怒り」などの感情を刺激して視聴率や部数を稼ぐ、ということを実はしがちである。ただ、そのいきついた最悪の事例が、特に満州事変以降の日本において無謀な戦争をあおったマスメディア(当時は主に新聞)である。その歴史を教訓とするならば、今、マスメディアは新興のSNSや動画共有サービスとは異なる役割を果たす責任があるだろう。

比較すれば日本社会では、マスメディアを利用する人々はまだまだ多く、一定の影響力を持ち続けている。実際、2025年の参院選前後にマスメディアが行ったファクトチェックなどは、排外主義の抑制にある程度寄与したとも考えられる。

とはいえ過去の情報独占の時代とは異なる現代、「正しい情報だから伝わるはずだ」という考え方は通用しない。各種の認知バイアスという避けがたい人間本性を理解し、一定の「わかりやすさ」などを考慮した情報発信は必須である。そのためにも、マスメディア側もSNSや動画共有サービスなどを活用した情報発信を進めていく必要があるだろう。

その上で「デマやフェイクは現実問題の解決を遠ざける、もしくは悪化させる」という当然の摂理を前提に、適切な問題把握のための取材を続け、事実を愚直であっても伝え続ける。フェイク情報が蔓延しやすい状況だからこそ、裏取りのなされた事実の価値は高まっている。その発信源としてのマスメディアの役割は、「メディア不信」の蔓延という時代を経たからこそ、その役割が期待され、かつ必要とされていると思われる。

<執筆者略歴>
田辺 俊介(たなべ・しゅんすけ)
政治社会学者・早稲田大学文学学術院教授。
東京都立大学人文学部卒業。東京大学社会科学研究所准教授などを経て、2017年から現職。
著書に「ナショナル・アイデンティティの国際比較」(慶應義塾大学出版会 2010)、編著に「外国人へのまなざしと政治意識」(勁草書房 2011)「日本人は右傾化したのか」(勁草書房 2019)など。

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