「暴力団排除」という言葉が、いまほど社会に浸透していなかった時代がある。プロ野球界もまた、その例外ではなかった。

球界の闇に真正面から向き合い、「反社会勢力」を締め出す礎を築いたのが、元東京地検特捜部長・熊﨑勝彦と、その右腕として奔走した弁護士・猪狩俊郎である。

やがてプロ野球の暴排が軌道に乗ると、二人はもう一つの巨大な“聖域”――テレビ局の不祥事調査にも深く関わることになる。

2007年、国民的人気番組が引き起こした前代未聞のねつ造事件。全容解明の最前線に立ったのが、熊﨑と猪狩だった。熊﨑は「外部調査委員会」の委員長に就任し、猪狩は実務責任者として加わる。

浮かび上がったのは視聴率至上主義のもとで事実が歪められ、裏付けや検証が機能しなくなった組織の構造的欠陥だった。

その後、熊﨑は2013年の「統一球問題」で揺れる球界の要請を受け、第13代プロ野球コミッショナーに就任する。家族の反対を押し切っての決断だった。

しかし、まさかの不祥事が起きる。それは読売巨人軍選手による野球賭博だった。「暴力団排除」は終わったはずではなかったのか――。

プロ野球と反社会勢力、メディアの不正、そして野球賭博へと連なる激動の時代。舞台は違えど、二人は生涯をかけて闇に切り込み、不条理と向き合い続けた。それを支えたのは、「事なかれ主義」に流されない覚悟である。

その歩みは、一過性の改革ではなく、終わりなき闘いの記録だった。