裁判のやり直しを阻む「抗告」の壁 袴田さんの事件が投げかけた課題

この問題に社会的な注目が集まる大きなきっかけとなったのが、袴田巌さんの再審だ。

1966年に静岡県で起きた一家4人殺害事件で死刑判決を受けた袴田さんは、2014年に一度、地裁で再審開始決定が出された。しかし、検察が抗告。その後、実際に再審が始まるまでに9年もの歳月を要し、2024年に無罪判決が確定した。

「人生の貴重な時間が手続きによって奪われてしまう現実がある」

こうした経緯から、2024年には党派を超えた議員たちが、えん罪被害者の迅速な救済を訴え、国会で声を上げるようになった。この動きが今回の法改正検討の出発点となっている。

「全面禁止」か「原則禁止」か 対立する議員と法務省の主張

「えん罪被害者の迅速な救済を優先したい」というのが稲田氏ら法案に反対する議員たちの基本的な立場だ。そのため政府案では不十分であり、検察官の抗告は「全面禁止」すべきだと主張する。

これに対し、法務省側はなぜ「抗告」の権利を残そうとするのか。

法務省の主張の中心にあるのは、刑事裁判の根幹をなす「法的安定性」という考え方だ。刑事裁判は、地裁、高裁、最高裁のように三審制のもとで慎重な審理を重ねて判決が下される。検察官の抗告を全面的に禁止してしまうと、この重い手続きを経て確定した判決が、一審である地裁の判断だけで覆されることになる。

TBS社会部で法務・検察担当の重松大輝記者の取材によると、それでは「元の確定判決の重みが失われ、刑事裁判のあり方のバランスが崩れる」というのが法務省の懸念だという。また、再審を請求する側は抗告ができるのに、検察側だけが一切できなくなるのは、制度として「公平性を欠く」という主張もあると話す。