安堵する親と懐疑的な子どもたち

シドニー郊外に住む2児の母、ウエルダン朋子さん(52)はこの法律施行を歓迎する。

「これは、いわば車の事故があった交差点に信号機ができるようなもの。国が『ここは危ない』と示してくれたことに意味があると思う」と語る。一方で「SNSをやめた子たちが、それ以上に楽しいことを外で見つけるのは正直難しいだろう」とも付け加えた。

しかし、朋子さんの高校生の長女(15)は、法の実効性に少し冷ややかだ。

法の施行に伴って自分自身が持っていたInstagramのアカウントは削除したが、多くの同世代の友だちが年齢認証をすり抜けているという。「もともとアカウントを作った時から年齢を偽っていたから、今さら何も変わらない」と言い切る。

「完全に禁止すれば、子どもたちは裏をかこうとするだけ。いじめそのものに対策を取る代わりに『16歳未満は全員禁止』と言っているだけで、いじめは今も続いている。SNSはもう私たちの世界。遮断しても、みんな戻る方法を探すだけです」とも。

長女の弟は3つ下の12歳。まだアカウントを持っていないが、クラスでは少数派だという。

「クラスのたくさんの子がまだTikTokを使っている。禁止されると、むしろ『どうしても使いたい』というプレッシャーが強まるだけだと思う」と話した。

彼が特に問題視するのは、規制対象から外れているプラットフォームだ。

「自分のまわりでは、Roblox(ロブロックス)のような規制対象外のものが使われていて、そこでのサイバーいじめはまだあります。でも政府はそうした状況を完全に無視しています」

深刻化するサイバーいじめ~「見えにくくした」禁止法の副作用~

長女はまた、身近で起きた深刻な事例を教えてくれた。

彼女の通う女子高にお互い仲の悪い2人の生徒がいて、現実世界での対立がSNS上に持ち込まれた。新法施行前の去年はじめにこの対立がエスカレート。殺害予告まがいの言葉が飛び交ったことで学校が警察に通報して2人は一週間の停学となり、クラスを分けるなどの配慮もとられた。しかし退学処分などには至らず、「今は、まるで何も起きなかったかのように見えます」と長女は真剣な眼差しで語った。

法律の施行後、学校内でのサイバーいじめは減ったのか?との筆者の問いに、彼女はしばらく考えてから首を横に振った。

「むしろ隠れていじめができるようになっています。以前は学校などがSNS上の動向をある程度把握できた。でも全面禁止になって、いじめはより見えにくい場所に潜った」

さらに、こう続ける。「『SNSでいじめられている』と相談すれば、『なぜSNSを使っているんだ』と言われてしまう。だから助けを求めることがより難しくなっています」。サイバーいじめを食い止めるはずの法律が、逆に深刻な“副作用“を生んでしまったのだ。