コロナ禍で苦境に立たされている百貨店が今、守りから攻めの経営戦略に転じている。大丸や松坂屋、パルコ、GINZA SIXなどの経営を率いる「J.フロント リテイリング」の好本達也社長に足元の消費動向と「脱百貨店」戦略を聞いた。
■コロナからの回復 高額商品の売り上げ好調
――コロナ禍の2020年5月に社長に就任した。

J.フロント リテイリング 好本達也社長:
2021年に中期計画を出して完全復活を目指すと宣言してからは、ある意味肝っ玉が育ったというか、これまでのやり方に固執していたらダメだ、元へ戻るという考え方はもう捨てなければダメだと強く思いました。
――コロナによる行動制限がなくなって、ようやく消費の現場にも光が差してきたと言われているが、百貨店等の状況は?
J.フロント リテイリング 好本達也社長:
10月に水際対策緩和と全国旅行支援が始まって、これで日本もやっと本当に前向いて、ここから先は行動制限が起こることはないだろうという実感を持てるようになりましたし、そこを起点に活気が出てきて数字が上がってきていると思います。
松坂屋名古屋店では今、高額商品の売れ行きが好調だ。「お得意様サロン」で販売しているのは富裕層向けのツアーだ。料金は1人80万円以上と高額だが、来年の夏まで予約で埋まっているという。希少性の高い宿や移動にヘリコプターを使ったプランなど、まさにオーダーメイドの旅行だ。
同店で取り扱う商材は3億円近い高級中古車まである。提携するディーラーにお得意様を紹介し、手数料を得るという新しいビジネスモデルだ。一方、地下の食品フロアでは旅行が回復している流れを受け、和菓子などの手土産商品が好調だ。婦人服フロアではお出かけ需要が復活し、コートやジャケットの売り上げが伸びている。
――足元は高額商品が好調だと言われているが。
J.フロント リテイリング 好本達也社長:
日本全体の中で若い富裕層というものができる土壌が育ってきているのではないかと思います。IT系、金融、不動産など30代前後で1000万、1500万もらう人が世の中にいっぱい出てくると、夫婦になると3000万という形になるわけです。店頭の風景を見ていると、かなりの購買力がある方々が多いのではないかという気がします。

全国百貨店売上高はコロナにより2020年、21年は落ち込んだが、22年は回復傾向にあり、直近の10月はコロナ前の2018年と比較すると、9.3%のマイナスまで回復している。
――百貨店ビジネスは対面で受け答えしてものを売っていくというビジネスだ。根本的に変革を迫られたということか。
J.フロント リテイリング 好本達也社長:
リアル、対面販売の重要性がより再認識されたと言えると思いますが、それだけをやっているともうダメだというのはよくわかったと思います。デジタルで10年後に起こるだろうと思っていたことが2年間ですでに現実になっていることはたくさんあると思います。(来店数が)20%ぐらい減っている店が多いのですが、売上はほぼ変わりません。1人当たりの単価が上がっていますし、顧客との関係はコロナ前よりも濃くなっています。
――今日本でも物価上昇が始まっており、これが消費に及ぼす影響を懸念する声も出始めているが。
J.フロント リテイリング 好本達也社長:
我々はどちらかといえば晴れの場のものを売っているので、今のところ価格に転嫁した部分も受け入れてもらっているものが多いです。輸入品関係は値段が為替の変動を追いかけながら上がっていく傾向があるので、今買った方が得だという部分も動いています。何か月か後にはもっと高くなるかもしれない。内外価格差で見ていくと、日本の物価はまだ安いです。
――賃上げが話題になっている。
J.フロント リテイリング 好本達也社長:
私たちとしても前とは違う角度で考えていかなければならないということは間違いないと思います。より若い方や自分で価値を生み出していけるような人に対してもっと違う報い方があると思うし、これに答えられない企業はおそらく若い方々からそっぽを向かれてしまう。