メジャー移籍後最速の投球も~進化した「投手・大谷」~
大谷は同じ6月16日に「そこまでメカニクス(投球フォーム)に関しては気にしてない」と話していたが、復帰後は目に見えて投球フォームが変わった。テークバックの際に右肩を落とし、左肩が上がるような形から始動。以前は本塁方向に突き出していた左腕の動きが、コンパクトに。グラブを左胸の前でキープしてから、左脇に巻き込むような動きになった。
大谷のアームアングル(リリース時の右腕の角度)は20年の45度から年々下がり、今季は35度。直球の平均球速は23年の96・4マイル(155・1キロ)から25年は98・1マイル(約157・8キロ)にアップ。
投手復帰3度目の先発となった6月28日のロイヤルズ戦では、公式戦ではメジャー移籍後最速となる101・7マイル(約163・6キロ)をマークした。球速だけをみても、ただ復帰するだけでなく、パワーピッチャーであることのこだわりを捨てず、進化して帰ってきた。
そのほか、今季は左足を引いてから投げるノーワインドアップを採用。キャンプ初日の12日に「優先するのは自分の投げやすさだったり、動きやすさ」と説明した。
反動を使うことで、これまでのセットポジションよりも上半身の負担が減ることにもつながる目的があるようで、マーク・プライアー投手コーチも「少しエネルギーを生み出し、腕にあまり負担をかけないようにしている」と語った。動作に一呼吸入ることで、ピッチクロック対応での負担も減らすことを可能にした。
また、ウォームアップ、ルーティンにも変化を加えた。エンゼルス時代の21年からキャッチボール前のルーティンにトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」考案のプライオボール(重さの違う6種類のボール)を使った「壁当て」を取り入れてきたが、今季は開幕直後から軽いゴムのような素材の白い特殊ボールで「壁当て」を行っていた。球団関係者によれば、肩肘への負担軽減を考慮したもので、2度の右肘手術を担当したニール・エラトロッシュ医師も推奨しているそうで、再発防止に余念はなかった。
大谷自身が24年オフのインタビューで右肘の手術について「現実的に見れば、やはり2回目くらいまでが投手としては理想なのかなと思う」と語ったように、3回目の手術は現実的ではなく、これが投手としては最後の挑戦になる可能性が十分ある。
今夏のオールスター戦前日会見では、「二刀流をずっと続けますか?」という米メディアからの質問に「プレーヤーとしてももちろんそうですし、どちらか1つやっていたとしてもどこまでできるかっていうのは分かることではない。もちろん長く続けたいなと思っています」と答えていた。
「Don’t take it for granted」(当たり前だと思わないでほしい)。20~22年途中までエ軍で指揮を執ったジョー・マドン元監督が大谷の二刀流について、口酸っぱく話していた言葉だ。
大谷は来年7月に32歳を迎える。番記者としては、マウンドで躍動する「投手・大谷」を「当たり前」だと思わず、一挙手一投足を追い続けていきたい。














